50年後を見据え、挑戦繰り返す ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(4)~

三重県東員町長 水谷俊郎
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

2022/1/31 全国初「移動式脳ドックサービス」の実証実験 ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(1)~
2022/2/3 全国初「移動式脳ドックサービス」の実証実験 ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(2)~
2022/2/7 50年後を見据え、挑戦繰り返す〜水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(3)〜
2022/2/10 50年後を見据え、挑戦繰り返す〜水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(4)〜

「失敗してもよい仕組み」を考える

小田 私はこれまでいろいろな自治体の取り組みを見てきましたが、よくあるのが「挑戦せよ」と言われて実際に職員がトライしようとすると、承認プロセスで「それは本当に失敗しないのか」と問われてしまうケースです。それで実際にお蔵入りになったプロジェクトも多々あります。こんなふうに、失敗が許されないような風土が残っている自治体もたくさんあると思うのですが、東員町の場合はいかがでしょうか?

水谷町長 私は職員に対し、「失敗してもいいからやってみて」と伝えています。私自身がこれまで挑戦して失敗したことが何回もありますから、職員の失敗を叱責することはありません。

 

小田 とても大切な考え方だと思います。事業は「千三つ」といわれるほど、1000あるうちの三つが当たれば「御の字」です。まずは数を打たないと、得られるものも得られないですからね。

水谷町長 ただし私が気を付けているのは、失敗したとしても財政負担を最小限にするということです。やはり住民の皆さんの税金をお預かりしていますから、なるべく町の予算を使わずに挑戦できるような仕組みを考えます。企業版ふるさと納税といった国の制度をうまく使えば、財政的な負担を抑えつつも、企業とウィンウィンの関係を築いていけると思います。

 

小田 民間企業が自治体と連携するメリットには宣伝効果や信頼性の向上など、必ずしもお金だけではない部分がたくさんあります。お互いのメリットを共有しながら進めていくことも、自治体が財政負担を抑えつつ官民連携できるポイントかもしれませんね。

反対に、官民がお互いのメリットをあまり共有しないままプロジェクトを進め、どちらか一方しか成果を得られなかったというケースもよく耳にします。自治体は企業に対し、何をしたいのかを明確に示す必要があると思います。その点、水谷町長はしっかりと伝えていらっしゃると思うのですが、企業に対しては特に何を伝えるように意識していますか?

水谷町長 私たちがかなえたいことを伝えるのはもちろんですが、「企業にとってのメリット」を提案するように心掛けています。それがなければ企業に協力していただけませんので、自治体は企業のメリットを考えなければいけないと思います。

 

小田 「企業のメリット」について首長自らがはっきりお話しされるケースは珍しいと思います。それが聞けると、民間企業は安心して協業できる自治体だと感じるはずです。

東員町は、水谷町長が自ら率先して企業にアプローチし、企業のメリットを直接お話しされて関係を築いておられるのですね。その様子を職員の方が日頃から見ていらっしゃるので、民間企業との組み方も理解していますし、いざ連携となったときの行動もスムーズなのですね。

50年後も、そのままの町で

小田 少し難しい質問かもしれませんが、東員町のような人口3万人以下の自治体がこれから地域の持続性を高めていくためには、何をしたらいいと思いますか?

水谷町長 確かに難しい質問ですね。それぞれの地域事情によって答えは異なりますから。

共通項として一つ言えるのは、自らの地域の状況にきちんと向き合うことではないでしょうか。それがまず大切です。

財政力指数が低いから多額の地方交付税を国に交付してもらい、財政調整基金にため続けている自治体もあると聞きますが、やはりそういったお金は地域に投資してこそ意味があると思います。少しずつでもいいので、地域の課題解決や価値創出につながるようなことに投資し、挑戦する姿勢が大切です。

 

小田 そうですよね。ただ、あまりに大きな予算を伴う挑戦は失敗したときの痛手も大きいですから、先ほど水谷町長がおっしゃったように、企業版ふるさと納税などの制度を活用したり、民間企業とのメリットの設計を工夫したりして取り組む方が良いということですね。

水谷町長 はい、その通りです。恐らく自治体の懐が痛むことに対しては、議会や住民の皆さんからの理解は得づらいでしょう。ですから、知恵を絞って民間企業との組み方を考えるのです。財政負担は最小限で済むけれど、行政サービスの幅が増えて住民のためになることであれば、それは大きな説得材料になります。

 

小田 とはいえ、まだまだ挑戦している自治体は少ないような気がするのですが。

水谷町長 根底に「変わりたくない」という意識があるのかもしれないですね。

 

小田 これから20年先を考えると、ますます若い世代の人口が減り、財政的にさらに厳しくなる自治体が増えると思います。
お金がある今のうちにハードも含めたまちづくりに取り組んでおかないと、後手に回れば回るほど厳しい自治体運営になりますよね。

水谷町長 私もそう思います。ですから今のうちに仕組みをつくるべきです。東員町は、50年後もこのままの町があり続けることを目指しています。そのために今、失敗を恐れずにどんどん挑戦しています。

 

小田 地域全体で現状を認識すること、数十年先を見据えて今やるべきことに首長自らが挑戦すること、そしてその他のステークホルダー(利害関係者)も、共に挑戦していくことが大切だということですね。その過程では失敗もあるでしょうが、次に生かしたらよいと。

水谷町長 個人的には、挑戦しない自治体はこの先、存続しないとすら思っています。国や都道府県に頼り切らず、いかに自らの力で生き残っていくかを考えなければならない時代です。生き残るには、仕組みをつくらなければなりません。そうすると浮かんでくるのが、民間企業との連携なのです。

民間と手を取り合い、一緒に地域づくりをしていくことが今後の自治体の生き残る術です。幸い、企業側も社会貢献に目を向けていますから、今こそが連携のチャンスではないかと思っています。

何度もお伝えしますが、失敗しないと成功はありません。だから失敗してもいいのです。

 

小田 水谷町長の常に前向きな姿勢が、職員の方たちにとって刺激になっているのですね。それと同時に、職員の皆さんが町長の挑戦を支えていらっしゃる様子もよく理解できました。

本日のインタビューは広報秘書係の佐藤さんに同席いただいていますが、最後に佐藤さんに質問してもよろしいでしょうか。
やはり、町の職員の皆さんは日々、挑戦を積み重ねていらっしゃるのでしょうか?

佐藤さん おかげさまで町長に鍛えられています。行政の人間は挑戦することに慣れていない者も多いですから、町長に引っ張っていただきながら、失敗したとしても前向きな失敗であるように努力しています。

 

小田 今回のインタビューから、東員町役場の皆さんはとにかく挑戦ありきで、たとえ失敗したとしても前に進むマインドが、庁内の共通認識としてあると理解しました。水谷町長のビジョナリーな(先見性のある)お考えは、多くの自治体職員の方にとって参考になると思います。

 

【編集後記】

「失敗してもよいから挑戦する」という言葉が何度も語られた本インタビューからは、水谷町長の真摯な姿勢が伝わってきました。

東員町の総合計画には「『まち』があって『ひと』がいるのではなく『ひと』がいて『まち』があります」との記述があります。若い世代の人口減少がますます進む中、住民が「この地に暮らし続けたい」と思えるまちとは何かと考えたとき、そこには「暮らしやすさ」につながる行政サービスの存在が不可欠でしょう。

もはや行政が単独で、あらゆる住民ニーズに応え続けることは難しい時代です。まちの未来をつくる仕組みとしての官民連携が今後、多くの自治体でさらに重要視されるでしょう。

本稿で紹介した東員町のさまざまな取り組みが、読者の方にとって何らかの知見になれば幸いです。

 

(おわり)


【プロフィール】

水谷 俊郎(みずたに・としお)
三重県東員町長

1951年生まれ。東京工業大工学部を卒業後、三重県庁、大成建設株式会社での勤務を経て、91年4月に三重県議会議員に初当選。3期の間に県監査委員、県議会行政改革調査特別委員長、同PFI研究会座長などを歴任。2011年4月に東員町長に就任し、現在に至る。

スポンサーエリア
おすすめの記事