株式会社ピリカ代表取締役/一般社団法人ピリカ代表理事・小嶌不二夫
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役/官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子
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世界的に喫緊の対応が求められている環境問題。プラスチックごみが細かくなった「マイクロプラスチック」による海洋汚染や、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスによる気候変動など、人間社会の発展の代償とも言える課題に私たちは直面しています。これを乗り越えるため、近年は環境対策に関する国際的な枠組みが次々と共有され、各地方自治体での取り組みにも落とし込まれていることでしょう。
今回ご紹介するのは、マイクロプラをはじめとする深刻なごみ問題の解決に取り組む「株式会社ピリカ」代表取締役の小嶌不二夫氏です。
「科学技術の力であらゆる環境問題を克服する」というミッションに、ITとデータを活用しながら「数値に基づいたごみ問題の解決」を目指すピリカ社。その活動は、EBPM(証拠に基づく政策立案=Evidence-based Policy Making)の考え方に重なる部分が多くあります。そんなピリカ社の具体的な活動内容や、自治体との連携事例などについて伺いました。(聞き手=Public dots & Company 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
科学技術が生んだ環境問題を科学技術で解決する
小田 まずは会社の紹介をお願いします。
小嶌氏 ピリカは2011年に設立した会社で、「科学技術の力であらゆる環境問題を克服する」をミッションに活動しています。
私は子どもの頃から科学が大好きでしたが、その科学が生み出した環境問題に心を痛めていました。環境問題は人類にとって最大の脅威です。それを同じ科学の力で克服したいと思い、これまで活動を続けてきました。
環境問題と一口に言っても、その種類にはあらゆるものがあります。何から手を付けるのがよいかを確かめるため、私は大学院生時代に世界一周の旅に出たのですが、すべての国で目にしたのが「ごみのポイ捨て問題」でした。まずはこれを科学技術を使って低コストで解決できるようにすれば、世界的にインパクトがあるのではないかと感じ、帰国後に仲間と一緒にサービス開発を始めました。そうして生まれたのが、ごみ拾いSNS「ピリカ」です。
スマートフォンで利用できるアプリで、日常的に行うごみ拾いについて、場所や拾った物、回収量などを投稿し、仲間同士でコミュニケーションを図ることができます。
ユーザーが回収したごみの総重量も確認できるので、自分が行った社会貢献活動が可視化され、クリーンアップ活動のモチベーションが保てるようになっています。このアプリをきっかけに会社を設立し、現在は11期目に入りました。ごみのポイ捨て状況を画像解析で調査するサービス「タカノメ」や、マイクロプラの流出メカニズムや解決策を探るサービス「アルバトロス」なども提供しています。
小田 国際的には海洋プラ問題が、「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴール14「海の豊かさを守ろう」と共に注目されています。
小嶌氏 ごみ問題は呼び方がいろいろあり、海洋プラもその一つです。どの呼称を使おうとも、要するにごみが自然界に流れ出ていく問題をどう解決するかが焦点になります。
50年までに海を漂うプラごみの総重量は魚の総重量を上回るといわれていますが、実際に私がインドネシアの海で見た光景は既にその片りんを表していました。プラスチックと魚は密度が異なるので、同じ重量にそろえると魚の周りをごみが覆い尽くすような状態になります(写真)。これを見ると、海を漂うプラごみの総重量が魚の総重量を上回るということが、どれだけ深刻な問題であるかが分かります。
海洋ごみが問題視される理由は、もちろん海洋生物への影響です。ごみが絡まったり、飲み込んで窒息してしまったり、胃袋に詰まって栄養が取れずに餓死してしまったりするといった影響が懸念されています。
最近の研究では、海洋ごみが植物性プランクトンの発育に悪影響を与えるという結果が出ています。植物性プランクトンはCO2を吸収して酸素を排出しますから、それに影響があるということは気候変動にもつながっていることが分かります。
ただし人体への影響については、まだはっきりとした結果が得られていないのが現状です。プラスチック自体は、飲料や食品の容器に使われているようなものであれば無害です。細かい破片にして飲み込んだとしても数時間以内に体外に排出されます。
問題なのは車の部品など、口に入ることを想定していないプラスチックです。それらは強度を増したり、着色のために有害な化学物質を加えたりする場合があり、そうしたプラスチックが小さくなって自然界に散らばり、巡り巡って人体に入ったときの影響はまだ明確には分かっていません。無害なプラスチックでも自然界の有害な成分を吸着し、濃縮した状態で生物に吸収されてしまうケースもあり、問題視されています。
このように、影響が読めない部分もあるのが海洋プラ問題なのですが、一つだけ言えるのが不可逆的であることです。一定のラインを超えてしまうと、もう後戻りできないタイプの問題です。
だから国際的に重要な課題として扱われていますし、問題が大きくならないうちにできることを全力でやろうというのが国際社会の合意なのです。
どの地域も無視できない
小田 19年に大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)では、「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組み」が採択され、海洋プラごみ問題の解決に向けた取り組みに各国が強くコミットメント(決意)しました。環境対策は、すべての自治体や企業が避けては通れないテーマとなっています。小嶌さんの目には、日本の自治体の現状はどう映っているのでしょうか?
小嶌氏 大なり小なり、取り組みを始めています。もはや環境対策はどの地域も無視できないテーマとなっており、海に面していない地域でもプラごみの流出を止めるための河川調査などを行っています。実は、海に流出するごみの8割は陸地から流れてきたものです。川や水路を通って海に行き着くため、海に面していない地域も「自分ごと」として捉える必要があります。
小田 小嶌さんが見てきた各自治体の取り組みについて、具体的にお話しいただけますか?
小嶌氏 県単位でよく実施されているのが河川調査です。マイクロプラを含め、どれくらいの量のごみが出ているのかという実態を把握します。その他に大規模なクリーンアップキャンペーンを実施したり、広報ツールなどで地域美化に関する啓発活動を行い、どうすれば消費者の行動を変えられるのかという実験をしたりしています。
小田 啓発活動はよく見掛けますが、その効果を測るのは難しいように思います。
小嶌氏 明らかに効果があるという取り組みを見つけ出すのは難しいです。例えば美化啓発のポスターを何万枚張ったから、ポイ捨て率がこのくらい下がりましたというようなことは、測定のしようがありません。「この広告を見たことはありますか」といった問いを含んだアンケートで意識調査するのが精いっぱいのケースもあります。
小田 ピリカ社が、自治体と一緒に取り組みを行うこともあるのですか?
小嶌氏 G20大阪サミットで共有され、環境省が主導する「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」に基づいて行われる各地の実験的な取り組みなど、さまざまな対策や事業に関わっています。
(第2回に続く)
【プロフィール】
小嶌 不二夫(こじま・ふじお)
株式会社ピリカ代表取締役一般社団法人ピリカ代表理事
大阪府立大卒。京大大学院を半年で休学し、世界を放浪。各国で大きな課題となりつつあった「ごみの自然界流出問題」の解決を目指し、2011年に株式会社ピリカを創業。ピリカはアイヌ語で「美しい」の意。21年に環境省「環境スタートアップ大臣賞」受賞。同年に「MIT Technology Review Innovators Under 35 Japan」選出。