人に向き合い、人を中心に考える~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(4)~

岐阜県美濃加茂市長 藤井浩人
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

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2022/08/17 人に向き合い、人を中心に考える~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(4)~

変化に対応できる人材育成を

小田 今回のインタビュー前に、藤井市長の所信表明と施政方針を読ませていただきました。その中で随所に出てくるのが、時代の変化に合わせた対応についてです。特に自治体にとって、現行のやり方を変えることは大きな困難を伴うと思うのですが、具体的には今後どのようなことに着手しようと考えていますか?

藤井市長 まず、庁内で共有したいのは「変化とは何か?」という概念です。新型コロナウイルス禍で急激に社会が変化し、行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)なども叫ばれていますが、美濃加茂市がそれらに柔軟に対応できているかと問われると、まだ手付かずの部分はたくさんあります。

ただし、職員に感じ取ってもらいたいのは「現場の変化」です。テレビや新聞を見て首都圏や海外の変化を把握するのも大切ですが、自分たちの目の前の現場がどのように変わってきているのか。ここに対して敏感であってほしいと思います。

 

例えば、今ではスマートフォンで食事のテイクアウトを予約し、その時刻になったら取りに行くというスタイルが市民生活では当たり前になりつつあります。一方で役所の受付窓口を見ると、紙の整理券を配って並ばせたり、その場で1~2時間も待っていただいたりと、時代遅れの対応が多々あります。

まずは、市民生活の中で当たり前になっていることをキャッチアップし、その当たり前を行政も実行できるようにすることが、変化に対応する第一歩だと思っています。

 

※イメージ

 

それから人事制度改革の中で、特に人材育成に注力することを考えています。なぜかというと、変化に対応する市役所を形作るのは、そこで働く職員に他ならないからです。

これからは、年齢よりも能力が問われてきます。公務員だから60歳、65歳まで安泰という時代ではありません。変化に対応しながら能力を発揮できる働き方をした方が、多くの公務員にとって幸せなことだと思います。ですから、経験者採用や各種の研修などを通じ、職員一人ひとりの能力をしっかりと維持できるような組織体制を構築していきたいと考えています。

 

小田 私は官民共創未来コンソーシアムの代表理事も務めているのですが、そこでよく自治体の方から人材育成の相談を受けます。そのときに難しさを覚えるのが、組織の役割や目的の再定義です。それから、人事評価や教育に組み込むことが難しい職務をどう扱うかについても頭を悩ませます。変化に対応することや現場に出ることなどが、まさにその類いです。この辺りは今後、徐々に設計されていくのでしょうか?

藤井市長 私は人材育成においては、個人の意見を尊重することに尽きると思っています。役所は3年ごとに異動があり、それまでとは全く異なる業務を担う部署に配属になることも珍しくありません。しかし美濃加茂市では今後、希望があれば同じ部署でずっと働いていただくことも考えています。そうなると、やはり怠慢や癒着が危惧されますから、評価制度で透明性を確保するつもりです。

教育に関しては、こちらから職員に提供するよりも、本人が必要だと思うものを自主的に学べる仕組みにしたいですね。

 

小田 ぜひ実現していただきたいです。官民連携事業で民間企業からよく寄せられる困り事の一つに、「人事異動で自治体側の担当者が代わり、話が通じなくなった」というものがあります。

藤井市長 4月になると「異動して来たばかりなので分かりかねます」と、市民にすら答えてしまう光景がいまだに見られますからね。民間企業ではあり得ない話だと思います。そういうところは変えていかないといけませんよね。

昨今、自治体が抱えている課題には共通のものが多いと思います。その課題を解決できたまちもあれば、未解決のまちもあるでしょう。私は、ある自治体で課題を解決した職員が、未解決の自治体に異動して再び活躍すればいいと思っています。これは民間企業ではよく起こり得る人材流動ですが、行政では不思議と進んでいません。

 

例えば、窓口のデジタル化を推進した職員であれば、事業の段取りや各種調整のやり方、関連する法律や条例に明るいはずです。そういう人材が別の自治体でデジタル化のプロとして活躍していけば、その人自身のスキルやキャリアの向上にもつながるでしょう。

しかし現状では、人事異動で全く関係のない部署に配属となり、一から新しい分野を学び直す職員が全国に大勢います。そんな様子を見ていると、正直なところ、仕事にやりがいはあるのだろうかと感じてしまいます。

人生100年のライフシフト時代を生きるのであれば、一人ひとりが能力を持ち、手に職を付けて働き続けられる環境を行政もつくっていかなければならないと思います。その方が役所も職員も互いにウィンウィンです。職員の能力を引き上げていく組織を、ガバナンスを効かせつつも構築していきたいですね。

 

何をするにも「人」を中心に

小田 最後に、読者に何か伝えたいことはありますか?

藤井市長 伝えたいというよりは、情報共有したいことなのですが、他の自治体と広報戦略について意見交換できればと思っています。いかに的確に市民に情報提供するかについてです。情報発信の手段はたくさんありますが、明確なビジョンやターゲットがないままに幾つもの媒体に手を出し、運用が散漫になっているケースがよくあります。ですから、広報戦略から組み立てている自治体に、それこそ官民連携の事例があれば学んでみたいと思っています。

 

小田 官民連携を通じた外部人材との交流についても、何か構想はあるのですか?

藤井市長 外部の方を入れる取り組みには着手できていないのですが、任期付き採用と経験者採用の枠を拡充したいと考えています。

企業誘致に関しては、「地域に魅力ある人材を定着させる」ことが大きなテーマになると思います。例えば最近では、大手通信会社が全国どこに住んでいてもリモートで本社勤務が可能な体制を築いたと発表しました。働くためにその地域に移り住むのではなく、余暇を楽しめたり子育てが抜群にしやすかったりするから、その地域を選ぶという人が増えてきています。

生活環境の良い場所には人が集まり、産業が回ります。当たり前のことなのですが、これまでの企業誘致はどうしても働く場所の提供になりがちだったので、市としては今後、「良質な暮らしができる場所」の提供に力を入れていきたいと思っています。

市には「リバーポートパーク美濃加茂」というアウトドア施設があります。木曽川の清流下りを楽しむことができ、バーベキュー場やカフェなどもある複合施設です。ここに、サテライトオフィスとして利用できるコンテナハウスを開設します。余暇を楽しみながら仕事もできる場所として、機能させる予定です。

 

小田 今回のインタビューからは、藤井市長が「人」を中心にまちづくりを考えている様子が、とても伝わってきました。

藤井市長 今回はいろいろとお話しさせていただきましたが、一言でまとめると「人と向き合うまちづくり」ということになります。

 

【編集後記】

インタビューを通じ、藤井市長からは常に「一人ひとりと向き合う姿勢」が感じられました。だからこそ市民の信頼も厚く、互いが主体となったまちづくりを進めていけるのでしょう。藤井市長の今後の行政運営に注目です。

 

(おわり)

 


【プロフィール】
岐阜県美濃加茂市長・藤井 浩人(ふじい ひろと)

1984年生まれ、岐阜県美濃加茂市出身。2010年10月、美濃加茂市議に初当選。13年6月、同市長に初当選。22年1月に通算4回目の当選を経て現職。趣味はスポーツと読書。好きな言葉は「義を見てせざるは勇なきなり」

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