青森県外ヶ浜町長 山崎結子
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2022/11/07 「しがらみのないフェアな町政」を目指して~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(1)~
2022/11/09 「しがらみのないフェアな町政」を目指して~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(2)~
2022/11/14 資源は活用、負債は次世代に残さない!~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(3)~
2022/11/16 資源は活用、負債は次世代に残さない!~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(4)~
コミュニケーションの工夫
小田 役場内におけるコミュニケーションの在り方について伺います。山崎町長は前回、住民から「しがらみのない人を」という理由で自分が選ばれたと話されました。ここから察するに、職員にとっては就任当初、山崎町長が背景や文化の全く違う人に見えたのではないかと思います。ご自身のお考えを職員に伝える過程で、何か感じるものはありましたか?
山崎町長 私は35歳のときに町長に就任しました。今でもそうですが、基本的に職員は年上の方ばかりです。加えて青森県初の女性首長ということで、職員は相当異端な存在がトップになったと感じたのではないでしょうか。率直に申しますと、2期目の今でもこちらの意図がうまく伝えられているかどうか分かりません。しかし、1期目よりも伝わっている感触はあります。
就任前は民間企業に勤めていました。勤務先の社長は意思決定がとても早く、多額の投資を行った事業でも先がないと分かれば、すぐに損切りができるような判断力を持つ方でした。その社長からは「常に考えながら仕事をしなさい」と教わり、私自身も意識してきました。
町長になってからは、庁内にも「考えながら仕事をする」という文化をより根付かせたいと思い、職員に働き掛けています。しかし、もともとトップダウン型の組織でしたから「個々が考えを持って仕事をする」という感覚が、最初はなかなか浸透しませんでした。「上から下りてきた仕事をすることに慣れているから、まずは考える習慣を身に付けるところから始めないとうまくいかない」と助言を頂くこともありました。
小田 組織は一朝一夕には変化しないですよね。変化のプロセスそのものを考え、仕組みにする必要があります。その点で具体的に工夫されたことやエピソードがあれば教えていただけますか?
山崎町長 少しでも私の考えが庁内全体に伝わればと思い、毎月の庁議の際に15分ほど話す機会を設けています。そこでは、先月行ったことに対しての反省や指摘事項を伝えたり、自ら参加した講演や勉強会で得た気付きをシェアしたりしています。話した内容は議事録となって各課に回りますから、庁議に参加していない職員にも伝わるようになっています。
また私が講演するときには、自らプレゼンテーション資料を作るのですが、その内容を若手職員向けにアレンジして話したこともありました。
小田 地道なコミュニケーションを続け、2期目で少しずつ変化してきたという感じでしょうか。
山崎町長 少しずつですね。難しさはまだ感じることもありますが、将来的なことを考えると、同じ方向を見てくださる方は多ければ多いほど良いと思っています。
小田 外部人材の登用で一気に組織変革を起こすというようなやり方も考えられますが。
山崎町長 実は以前、副町長として、とある方に町政に携わっていただこうとしたのですが、議会の否決でかないませんでした。県政の第一線で活躍されたとても有能な方で、病院の新築移転問題などで尽力いただけると考えていたのですが。
否決の理由ですが、どうやら人事というより、私が推薦したことに対する反発の要素が大きかったようです。新しいことをしたり、新しい人材によって組織に刺激を与えたりすることには、まだまだ抵抗があるように感じます。
小田 逆風を感じながらも町政運営に取り組まれているのですね。
山崎町長 骨が折れると感じることもありますが、少々の逆風が吹いていた方が奮起できます。
小田 日本の政治は男性社会の風潮が根強く残っています。そして地方に行けば行くほど、いわゆる「ムラ社会」的な考え方も顕著になります。そんな中で、40代の女性首長として日々奮闘されている様子が伝わってきました。
山崎町長 あまり「女性だから」という理由を主張したくはないのですが、「女性だから〇〇」というバイアス(偏見)がかかったようなご意見を頂くことも、まだあります。しかし住民の負託を頂いて町長を務めているわけですから、成果はしっかり残そうと努力しています。
小田 山崎町長に対する態度は、町の女性に対する態度とも考えられますね。
山崎町長 外ヶ浜町に住む女性が生きやすいまちをつくっていきたいです。これに関しては、私の中で相当の切迫感があります。
小田 同じ課題を抱える自治体は至る所にあります。若い女性がまちから出て行ってしまうのは、人口減少の観点からは取り返しのつかないことです。山崎町長の切迫感が全国の自治体関係者に伝わることを期待します。
山崎町長 それは切に願います。いまだに「息子と娘がいて学費が1人分しかないとしたら、本人たちの学びたい意思に関係なく、息子の方を大学に行かせる」という考え方がまかり通る地域もあるでしょう。そういう、女性の社会参画をそもそも想定していない考え方や仕組みは、なるべく早く修正すべきです。
このインタビューで繰り返しお伝えしている「負債を次世代に残さない」という言葉の中には、ジェンダーギャップ(男女格差)の解消も含まれます。私のできる限りで、解消できることは解消していきたいと思っています。
産業振興に向けた展望
小田 今後の町の取り組みについて伺います。特に産業をはじめとした「経済の攻め手」をお聞かせください。
山崎町長 町の主要産業は水産業です。中でも、養殖業はこれから伸びると思っています。
現在、特にアジア諸国で生食用サーモンの需要が伸びているのですが、同じアジア地域で需要に応えられる養殖場はありませんでした。そこで近年、旧三厩村地区から隣の青森県今別町のエリアにかけて「青森サーモン」の養殖場が開設されました。ここは日本では最大級の養殖場です。外貨を得るためには、需要があるものを生産する必要があります。ですから青森サーモンを筆頭に、需要がある他の水産物についても可能性を見いだしていければと思っています。
それから、これはまだ情報収集の途中段階ではありますが、グリーン投資の分野においてもチャンスがあると思っています。
外ヶ浜町は森林も豊かですし、海もあります。「カーボンニュートラル」に向けた取り組みの中でも、とりわけ「ブルーカーボン」(大気中の二酸化炭素を海藻などの海域生態系が吸収し、長期貯留することで温室効果ガス増加の緩和に効果が期待できる仕組み)に可能性があると感じています。今ある資源を最大限に活用し、経済的にも潤うまちづくりができればと考えています。
小田 企業版ふるさと納税なども活用の余地がありそうですね。
山崎町長 今後、強化が必要です。今は企業に対し、アピールする内容に不足があると感じています。今年9月に更新申請ができるので、そこに向けて内容をブラッシュアップしています。企業が寄付したくなるような、魅力的な地域再生計画を立案できればと思っています。
【編集後記】
今回のインタビューには、行政組織の柔軟性や人口減少、少子高齢化、世代間ギャップ、ジェンダーギャップなど、日本が抱える多くの課題が圧縮されていました。世代や立場によって地域の見え方が異なる中、それらをどうまとめていくのか。「負債を次世代に残さない」というテーマを掲げた山崎町長からは、固定化された価値観に縛られまいとする強い意志を感じました。
縮退社会において、まちの持続可能性を高めるためには、前例踏襲に待ったをかける勇気が必要になることも多々あるでしょう。今回のインタビューが、読者にとって「今のやり方が果たして適切か?」と問うきっかけになることを期待します。
(おわり)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年10月3日号
【プロフィール】
青森県外ヶ浜町長・山崎 結子(やまざき ゆいこ)
1981年東京都世田谷区生まれ。成城大文芸学部文化史学科卒。青森県を地盤に曽祖父、祖父、父が国会議員を務めるなど政治が身近な環境で育つ。2017年3月同県外ヶ浜町長選で初当選し、同県初の女性首長として翌4月に就任。現在2期目。