佐賀県有田町長 松尾佳昭
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2022/12/21 400年の伝統を強みに~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(1)~
2022/12/23 400年の伝統を強みに~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(2)~
2022/12/27 挑戦を楽しみ、新たな伝統に~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(3)~
2023/01/05 挑戦を楽しみ、新たな伝統に~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(4)~
意識的に外部と交流
小田 前回、役場をセクショナリズムな組織にしたくないとおっしゃいましたが、松尾町長が普段から組織づくりで意識していることや、職員に伝えていることは何でしょうか?
松尾町長 「できない理由よりも、できる理由をベースに考えよう」と伝えています。この考え方は民間企業では当たり前かもしれませんが、行政の世界ではまだまだ浸透していません。ですから言い続ける必要があると思っています。もともとは有田が好きだから町の職員になったはずです。ならば、有田を元気にするために積極的になろうと。
「虫の目(ミクロ)、鳥の目(マクロ)、魚の目(時代の潮流)、コウモリの目(逆さ)」という四つの視点を持って仕事に取り組んでほしいですし、ファーストペンギンになることはもちろん大歓迎です。
小田 職員に伝わっているという手応えはありますか?
松尾町長 すべて伝わっているとは思いませんが、若手はだんだん理解してきているように感じます。
小田 実際の体験の中で、松尾町長の言葉がふに落ちる場面もあるでしょう。これまでにそんな瞬間はありましたか?
松尾町長 「Web有田陶器市」の取り組みでは、明らかに職員のマインドが変わったように感じました。武雄市、嬉野市と行った若手の職員交流もです。やはり新しいことへのチャレンジや、さまざまな属性の人同士が交わることで学びが得られると思いました。
今後は役場内でもどんどん連携してほしいので、2023年の4月には推進室をつくり、数人で組織する予定です。それがどんな結果を生むかはまだ分かりませんが、まずは兼務させることが重要だと考えています。そうでなければ、いつの間にか自分の限界をつくってしまいます。
小田 国内の大企業の多くもセクショナリズムに陥っており、新規事業を生み出しづらくなっています。さまざまな人たちと交わることで、マインドが変わらなければ先には進めません。
私は官民共創をサポートしていますが、大企業の新規事業開発部署の方たちのマインドが切り替わる様子を目の当たりにすることがあります。それはやはり地域の現状をよく知る自治体職員と交流したことがきっかけです。
松尾町長 役場の職員も、どんどん外の世界を見るべきです。私が東京などに視察に行く際、今後は予算の許す限り、職員を同行させたいと考えています。
私が尊ぶマインドとは、「Think Globally , Act Locally」の精神です。インバウンドも含め、世界の動向をしっかりと捉えながら有田の発展を考えること。しかし、動くときは足元から着実にいくこと。こうした点を日頃から若手職員には伝えています。
有田には「挑戦なくして伝統なし」という言葉があります。400年の歴史は、常に挑戦してきたからこそ、つくられました。ですから、職員にも挑戦することの大切さを頻繁に伝えています。
「STEAM教育」を推進
小田 ご自身を含めて挑戦すること、そしてファーストペンギンになることを歓迎するとのことですが、現在取り組んでいることでそのような例はありますか?
松尾町長 「STEAM教育」を子どもたちに提供する体制をつくっています。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Art)、数学(Mathematics)という五つの領域から、クリエイティブな発想力や問題解決力を身に付ける教育手法です。
これからの時代は「1+1=2」「2+2=4」と、決まった答えを出せば良いという単純なものにはなりません。何が課題で、どうすれば解決できるかを考え抜く力が必要です。そういった力を有田の子どもたちに基礎教養として身に付けてもらいたいのです。
ものづくりやデザインといった分野に親和性が高く、有田の産業にぴったりです。
学習指導要領が決まっている学校教育に落とし込むことはなかなか難しいので、現在は学校と塾の間にある曖昧な時間を使って学べる機会をつくっています。これまで、ノーコードのプログラミングアプリを使ったクリエイティブ講座や、ユーチューバー体験などの企画を実施しましたが、子どもたちはとても楽しそうに学んでいました(※注)。
小田 松尾町長の挑戦を楽しむ姿勢が、職員や住民に伝播していますね。
松尾町長 自分が楽しくて幸せでないと、職員も町の皆さんも幸せにできないですからね。人並みに悩みもありますが、それは町長としての悩みですから、町長冥利に尽きると言えます。とにかく「明るく楽しく元気よく」がモットーです。
その姿勢を職員にも町の皆さんにも常に呼び掛けています。笑顔のないところに笑顔は咲きません。大変な局面でも笑顔を絶やさずに進んでいきたいと思っています。
【編集後記】
町のトップセールスマンとして、挑戦し続ける姿を自らの行動で示す松尾町長。その話しぶりに、有田町に対する誇りと郷土愛を感じました。町職員のマインドセットとして語られた「Think Globally , Act Locally」という言葉は、人口減少が進む今日の日本において、どの地域でも意識すべきことではないでしょうか。
世界から町を俯瞰すること、町の強みを深く知ること、時には視点を変えてみること、そして長期的な時間軸で考えること。あらゆる人のあらゆる視点が、町の未来を創造します。部署や組織、地域を越えた連携が重要視される理由を改めて認識しました。
(おわり)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年11月21日号
【プロフィール】
佐賀県有田町長・松尾 佳昭(まつお よしあき)
1973年生まれ、佐賀県有田町出身。福岡大法卒。有田焼ブランドメーカー勤務、参院議員秘書などを経て、2006年有田町議選に初当選し、連続3選。18年4月有田町長に就任し、現在2期目。