熊本県高森町長 草村大成
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2023/01/30 「実行」と「実現」はセット、決めた以上はやり切る~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(1)~
2023/02/02 「実行」と「実現」はセット、決めた以上はやり切る~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(2)~
2023/02/06 「迷ったらフルスイング」で行動~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(3)~
2023/02/10 「迷ったらフルスイング」で行動~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(4)~
行政情報、ケーブルテレビで発信
小田 情報発信では、どのような工夫をされたのでしょうか?
草村町長 情報通信基盤として町に光ファイバーを導入すると同時に、ケーブルテレビ局を開設しました。そして役場の中にスタジオをつくり、町の政策について担当職員が口頭で説明する番組の放送を始めました。
小田 それは面白い取り組みですね。
草村町長 行政の情報発信は回覧板や広報誌が一般的です。それも手段の一つではありますが、スピードに欠けます。文書を作り、校正に何時間もかけてから発信するわけですから。自分たちで予算化した事業は、自分たちが口頭で説明するのが最も速いです。
小田 住民はどのように視聴するのですか?
草村町長 自宅のテレビで、主要放送局の番組を見るのと同じ感覚で視聴できます。町のチャンネルは「TPC(たかもりポイントチャンネル)」と言いますが、リモコンのチャンネルボタンの操作では、NHKの次に表示されます。番組表にもTPCの放送スケジュールが載っているので、住民の皆さんに自然と認知していただくことができました(写真2)。
小田 視聴した住民からは、どんな反応が返ってきますか?
草村町長 フィードバックは毎回たくさん頂きます。もちろん「この政策にこれだけの予算を使うのか」「職員が注力すべきはこの分野だ」といったように、厳しいご意見も含んでのフィードバックです。
小田 中には否定的な意見もあるのですね。
草村町長 職員は当初、番組の放送に否定的でした。文書作成を省き、口頭で説明するわけですから。
しかも番組は8時間を1クールとして収録し、1日当たり3回放送します。24時間ずっと情報を流していますから、住民の皆さんは放送内容を大体、見逃さずに視聴できます。職員にとっては相当なプレッシャーだっただろうと思います。
住民の皆さんからは厳しいフィードバックもある一方で、「使いやすい」との感想を頂くことも多いです。番組では、これまで回覧板や広報誌でしか得られなかった情報について、さらに詳細をお伝えしたり、災害ライブカメラの映像、ごみ出しカレンダー、お悔やみ情報なども放送したりしています。
町の暮らしに役立つ情報を総合的に発信していることが、好意的な意見につながっているのだと思います。
小田 当初は懐疑的だったものの、使ってみたら便利だったというわけですね。
草村町長 高齢者の方に慣れてもらうため、少し工夫した部分もあります。データ放送の画面上に「防災情報」「行政情報」というように、情報をカテゴリーに分けて置きました。その並びの中で「お悔やみ情報」を一番下に配置したのです。
高齢者の方はお悔やみ情報を確認する機会が多いです。そこで、リモコンで選定する操作に慣れてもらえるよう、お悔やみ情報のカテゴリーをあえて最下部に配置しました。この並びにしたことで、高齢者の間でもTPCが広まりましたし、2016年の熊本地震の際には情報伝達手段として相当、役に立ちました。
対話と即断即決
小田 これまでのお話から、草村町長が職員をどんどん引っ張っている様子がうかがえます。普段のコミュニケーションはどのように行っているのですか?
草村町長 日々、オープンに会話しています。私が持つ情報はすべて職員に開示しており、それに対して「どう思う?」と素直に問い掛けながら意見を聞くようにしています。
すると、良いアイデアが職員から返ってくることもあるので、そのときはすかさず目の前で一歩、具現化するところまで話を進めます。そうするうちに、だんだん職員からの提案が増えていきました。やはり自分の意見が形になることに対し、期待や楽しみを感じてもらえたのではないかと思います。
小田 対話と即断即決、そして実行して見せるということですね。
草村町長 まさにその通りです。職員には、責任はすべて私が取るから心配しなくていいと伝えています。
小田 心理的安全性をきちんと担保されているのですね。
草村町長 どんどん提案はしてほしいですから。
小田 議会とのコミュニケーションについては、いかがですか?
草村町長 議会には事前の相談と報告を行っています。大事なのは圧倒的な実績を見せることです。何かをやると決めたら、そのための財源と手法は必ず説明します。そして「実行」と「実現」です。
私は、実行と実現はセットであるべきだと思っています。実現までたどり着いて、初めて多くの方の納得を得られるからです。スタートの1期4年で、ある程度のスピード感を持ち、実行と実現を繰り返してきました。そうしたところ、議会の対応も変わってきたように思います。
小田 マニフェストと総合計画をリンクさせたり、情報発信の手段としてケーブルテレビ局を開設したりしたことも、実行と実現の事例ですね。他にもあるのでしょうか?
草村町長 2013年に町の情報通信基盤として光ファイバーを導入したことも、それに当たります。光ファイバーの導入で町の暮らしがどう変わるのか、どのように導入するのかといったことを丁寧に議会に説明しました。
当時は光ファイバーが市場に出始めた頃だったので、私の説明はあまり理解されていないようにも見えました。しかし実際に導入すると、教育や福祉の分野でサービスの質が明らかに向上しました。この様子を見て、議会も納得したように思います。
小田 4年という時間軸の中で政策を次々に実現していく過程では、時に孤独な闘いもあっただろうと推測します。草村町長からは、それをやり切る力強さを感じますが、原動力になっているものは何でしょうか?
草村町長 自分で政治の世界に飛び込もうと決めたわけですから「決めた以上はやり切る」ことが大事だと常々思っています。この姿勢は、民間企業の経営者だった頃から何ら変わっていません。これと決めたら、ひたすら実現に向けて進むのが私の取りえです。
事業には熱量が不可欠です。形が見えてくると、モチベーションにも拍車が掛かります。反対意見も当然ありますが、何とか納得させようと奮起します。その結果、落選となれば、それまでです。このような覚悟を常に持ち、町長を務めています。
小田 「決めた以上はやり切る」という強い思いが原動力であり、周囲を巻き込む力にもなっているのですね。
次回は、職員や町民とのコミュニケーションの在り方や、町のユニークな施策である「漫画を基軸にしたまちづくり」について伺います。
(第3回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年12月19日号
【プロフィール】
熊本県高森町長・草村 大成(くさむら だいせい)
1967年生まれ。日大文理卒。2011年熊本県高森町長選で初当選。当時作成したマニフェストで、第9回マニフェスト大賞の首長部門で優秀賞を受賞。現在3期目。信念は「仕事は『まっすぐ・ぶれず』にやりぬく!」