
青森県むつ市長・山本知也
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子
2025/04/23 「継承と挑戦」新たな風を吹き込む市政運営~山本知也・青森県むつ市長インタビュー(1)~
2025/04/24 「継承と挑戦」新たな風を吹き込む市政運営~山本知也・青森県むつ市長インタビュー(2)~
2025/04/30 前例を打破し、「日本一」にこだわる市政~山本知也・青森県むつ市長インタビュー(3)~
2025/05/01 前例を打破し、「日本一」にこだわる市政~山本知也・青森県むつ市長インタビュー(4)~
青森県むつ市、山本知也市長のインタビューを全4回でお届けします。
市職員・県議会議員として培った経験を生かし、「日月に私照なし」を信念に、公平・公正な市政運営に取り組む山本市長。市民一人ひとりの声に寄り添いながら、むつ市が抱える課題に挑戦し、次々と新たな施策を実現しています。
本インタビューでは、市長就任の経緯や信念、そして未来を見据えた市政運営のビジョンについて伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
山本市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)
市職員・県議を経て市長就任
小田 山本市長は、むつ市職員、青森県議会議員を経て首長に就任されました。行政と議会、双方の経験を持つお立場から、市長選への立候補を決意された背景についてお聞かせください。
山本市長 私は2006年から12年間、むつ市役所で税務、財政、企画や体育施設管理など、市民生活に直結する業務に携わり、19年からは、市職員としての経験を踏まえ、青森県議会議員として地域のさまざまな現場に足を運び、むつ市の課題をより広い視点から捉えることができるようになりました。その上でむつ市を内部と外部の双方から理解している経験を市政に生かしたいという思いから、市長選への立候補を決意しました。
小田 宮下宗一郎前市長(現青森県知事)は、むつ市政に大きな変革をもたらした人物として知られています。宮下前市長の存在は山本市長にどのような影響を与えましたか。
山本市長 宮下前市長は私にとって重要な存在です。むつ市役所時代には秘書として仕え、そのスピード感と決断力、実行力を間近で学ばせていただきました。前市長の市政運営は単なる政策の実行にとどまらず、市民に希望を届けるために、新しい挑戦や迅速な政策決定を重視していました。こうした姿勢に深く共感し、これまでの改革を継承しながら新たな挑戦を行う決意を固めました。
すべての市民に等しく政策の恩恵を届ける
小田 市職員、県議会議員そして現在のむつ市長としての経験を振り返り、市政において最も大切にされている信念や価値観について教えてください。
山本市長 私は市政運営において、「日月に私照なし」という言葉を信念にしています。これは、太陽と月が平等に全てを照らすように、市政もまた全ての市民に対して公正・公平であるべきだという考えです。この信念は税務や財政など職員時代の時から大切にしており、「すべての市民に等しく政策の恩恵を届ける」という現在の市政運営の軸となっています。また、宮下前市長から受け継いだ「一人の市民を大切に」「市民は家族だ」という理念も、私の市政運営の根幹を支えています。
小田 市職員時代から培われてきた「日月に私照なし」という信念や、前市長から受け継いだ市民に寄り添う姿勢が、現在の山本市長の軸になっているのですね。市職員から県議、そして市長と立場が変わる中で、市政に対する見方も変化してきたのではないでしょうか。
山本市長 市職員時代は、税務や財政など、法律や規則に基づく業務が中心で、「役所の仕事は規則に縛られ、新しい挑戦は難しい」と感じていました。しかし、宮下前市長が市長に就任し、「イルカと人との共生によるふれあいビーチinむつわん(※注1)」といった新しい施策を打ち出す姿を見たことで、その認識が大きく変わりました。市民と協働で計画を立案し、全く新しい価値を創造できる。市役所にはそんな可能性があることに気付かされたのです。
当時の私は、インフラが不十分で、新幹線駅や空港もないという下北地域(※注2)の現状に悔しさを感じており、その状況を変えたい思いから県議を目指しました。議員活動をする中でも、価値観が変わる出来事がありました。議会には政策提案の権限がありますが、県議会では議員提案による条例制定は極めて少ないのです。一方で、市職員は新しい取り組みを見出し、予算要求し、それを議会が承認するというプロセスで多くの事業を実現しています。市役所から飛び出して議員を経験することで、市職員の持つ可能性を再認識できました。
(※注1)むつ市の陸奥湾を舞台に、イルカとの触れ合いを通じたセラピーや教育プログラムを展開する事業。イルカを地域の観光資源として活用し、心身の癒やしや学びの場を提供。地域住民と観光客を対象に、むつ市の自然と調和した独自の取り組みとして注目を集めた。
(※注2)青森県の北東部に位置し、本州の最北端に当たる地域。下北半島のむつ市、大間町、東通村、風間浦村、佐井村で構成する。
小田 行政と議会、双方の経験は現在の市政運営にどのような影響を与えていますか。
山本市長 市職員としては現場の課題を直接的に感じながらも、市民とはどこか一定の距離があるように思っていました。一方で、議員としての経験では、農協や漁協、学校などを訪れ、市役所内では見えなかった市民のニーズや地域特有の課題を肌で感じました。これらの経験を通じて、「市民一人ひとりの声を直接聴くこと」の重要性を再認識し、それを市政に反映する仕組みづくりが必要だと考えるようになりました。市長となった現在では、市民の皆さんの意見を職員が直接聴く場を設け、より実効性のある政策を立案できるよう努めています。
(第2回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年3月17日号
【プロフィール】
山本 知也(やまもと・ともや)
1983年青森県むつ市生まれ。
2006年にむつ市役所へ入庁し、体育施設管理、税務、財政、企画や秘書など幅広い業務を担当。
19年、青森県議会議員に初当選し、むつ市を取り巻く課題解決に尽力。23年4月、むつ市長に就任。現在は1期目。