公民連携時代の指定管理者制度再考(4)

公民連携時代の指定管理者制度再考
新たな価値形成につながる公園管理の方法論へ

株式会社Public dots & Company PdC エバンジェリスト
SOWING WORKS 代表
元国土交通省 都市局 公園緑地・景観課長
町田 誠

2020/10/20 公民連携時代の指定管理者制度再考(1)
2020/10/22 公民連携時代の指定管理者制度再考(2)
2020/10/27 公民連携時代の指定管理者制度再考(3)
2020/10/29 公民連携時代の指定管理者制度再考(4)
2020/11/03 公民連携時代の指定管理者制度再考(5)
2020/11/05 公民連携時代の指定管理者制度再考(6)


管理の仕事の特殊性─指定管理者制度導入・指定管理事業を妨げる特殊性─

先に述べた、公共事業の「調査」「測量」「計画」「設計」「工事」の各段階における外部化は、公共団体と民間企業の間で交わされる契約による、「発注」「納品」「引き渡し」の繰り返し作業である。直接的な利用者との対峙の機会はあまりない。地元説明会や設計段階でのワークショップなどはあるが、多くの場合、公共団体主催で、「受注者」の民間セクターは補助的な存在である。

一方、施設が供用され、利用者との間で発生する管理の仕事は、ほとんどが利用者との直接的な対峙の中にある。ここで重要となるのが、「中立」「公平」「公正」「透明」といった、公共の業務ならではの基本思想、規律である。「調査」「測量」「計画」「設計」「工事」外注化の入札契約手続きにおいてもこれらは求められるが、管理段階で求められる利用者との間のそれらとは異質なものである。

指定管理者制度の運用に当たって総務省から発出された通知においても、指定管理者の「対象は民間事業者等が幅広く含まれるもの」としつつ、「住民の平等利用が確保されること」「施設の効用を最大限に発揮するとともに管理経費の縮減が図られるものであること」「管理を安定して行う物的能力、人的能力を有していること」を求めている。こうしたことが民間セクター、特に営利を前提とする民間企業にできるのか、という懸念を抱く人もいる。端的に言えば、民間企業が施設の管理者となった場合、利用の公平性が保たれず、特定の者に利益がもたらされるのではないか、また、物品の調達などにおいて特定の企業のみが受注の恩恵を受けるのではないか、などの心配である。「公の施設」の管理者としての適格性が厳に求められるからこそ、法律で「指定管理者の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該普通地方公共団体の議会の議決を経なければならない」とされているのであるが、指定後の施設利用をめぐって、公平ではないのではないか、という疑念から、直営管理に戻ったりする例もある。余談ながら、「中立」「公平」「公正」「透明」の保持という観点で、直営管理と指定管理の間にある本質的な差異は分からない、というのが真実であるように思う。

また、総務省からの文書には「道路法、河川法、学校教育法等個別の法律において公の施設の管理主体が限定される場合には、指定管理者制度を採ることができないものであること」とされたが、その後、国土交通省から「指定管理者が行うことができる道路の管理の範囲」に関して解釈が示されたり、施設使用許可が指定管理者の手によって行われたりしている中、行政処分等の公権力行使はどこまで行えるのかなど、一般的理解において指定管理者制度には不明確な点も多いのが現状だ。

こうしたこともあって、指定管理者制度がさまざまな意味で積極的に運用されて、施設の利活用が飛躍的に向上するなど、著しく効果が発揮されているというような事例に遭遇することはあまりない。指定管理者導入のための手続き(条例改正や管理者指定のための議会による議決など)はなされているものの、現実に行われているのは、業務委託時代と同様の事実上の公物管理行為であり、その多くが外形的な施設の管理(ハードの管理)と、単純な利用受付業務などにとどまっていることが多いと言わざるを得ないのである。

指定管理は地方公共団体職員が行ってきた業務の代行であるから、当然掛かる費用(指定管理料)は支払われるが、業務委託時代と同じ業務内容で、同じ(あるいは削減)対価であり、新しいアクティビティー(活動)やイベントの導入など施設を使いこなし、新しい価値の創造などにつながることは稀で、ましてや投資により新しい利用便益を発生させて利益を回収し、これをさらに管理に充てていくというような仕事につながる例は少ない。指定管理者側にやる意欲があったとしても、営利活動と見做される等の理由で認められない、というケースが一般的であろう。

このような指定管理者制度運用の現実があるので、昨今のいわゆる公民連携を基軸にしたまちづくり活動に関わっている方々からは、指定管理者制度の評判はすこぶる悪い、と私は感じている。一般的に行われているほとんどすべての指定管理事業は、公金を原資としながら、エリアの価値向上や地域住民の豊かな生活時間を創造する持続可能な仕事になり得ない、と見切りをつけられているようにすら思う。

公園の指定管理事業から見えてくるもの

こうした実情もあって、公共施設の飛躍的な効用発揮にはあまり役に立っていないと言わざるを得ない指定管理者制度であるが、本来はもっとさまざまな試みができる制度であるはずだ。経費削減のためだけに導入されているかのように評されることも多いが、全国11万カ所の公園全体の機能の健全な保全や元気なまちづくり、地域生活の価値向上を、指定管理者制度の積極的、創造的な運用によって十分達成できると私は思っている。今以上に公園の直接的な管理に充てられている経費を削るという発想ではなく、公園管理に割かれているリソースを、より指定管理に「移転」して、そこに投資回収型の事業(例えばPark-PFIなど)を組み合わせ、より多くの公園をパッケージ化して包括的な管理を行うという手法である。

表1を見てもらいたい。都市公園における指定管理者制度の導入の実態であるが、全国の導入率は箇所数ベースで12%足らず、88%の公園では同制度以外の手法にリソースが割かれている。詳しくは次回(最終回)で述べるが、公園管理に係る業務は大きく分けて三つの手法で成立している。一つは「直営費」、公務員の人件費、事務費、資材の購入費などである。そしてもう一つは、個別の管理作業(工事)として発注される「業務委託費」。最後が「指定管理費」である。議会の議決を経て指定された管理者に支払われる費用だ。作業や工事も外注せず、指定管理者制度も導入していない地方公共団体があれば、100%直営費ということになる。業務委託費の比重が大きい所もあれば、指定管理費の比重が大きい所もある。どこに管理手法の重きを置くか、という選択になる。

表1
【表1】※制度創設から17年経つが、導入率はまだ低位にとどまっている。(出典:国交省データを基に筆者作成)

 

図1
【図1】※流れは外郭団体から民間セクターであるものの移行のスピードは鈍化。※矢印は上昇傾向か下降傾向かを示している。(出典:国交省データを基に筆者作成)

 

図2
【図2】※財政状況の好転が見込めない中、公共施設の管理費抑制はすでに限界。※管理費を抑制しつつ公共施設の効用を高めるためには、構造的な管理手法が必要。(出典:国交省データを基に筆者作成)

 

また、図1からは都市公園の指定管理者の属性が見て取れる。半数以上が、地方公共団体の出資法人(いわゆる外郭団体)であるが、民間事業者やNPO等がそのシェアを伸ばしてきている。いわゆる外郭団体のすべてを否定するわけではないが、すでに限界まで削減されている管理費(図2)の実態を考えれば、少しでも多くの原資が「現場」に投下され、ユーザーの利益に直接つながる管理の形態を目指すべきだ。

次回以降は、20年後、30年後も持続可能な公園の管理のシステムを具体的に提案したい。

第5回につづく


プロフィール
町田 誠(まちだ・まこと)町田誠氏プロフィール写真

1982年旧建設省。旧国土庁、国土交通省等勤務の他、国際園芸・造園博覧会ジャパンフローラ2000、2005年日本国際博覧会(愛知万博)、全国都市緑化フェアTOKYO GREEN 2012において、会場整備、大型コンテンツのプロモート等に従事。さいたま市技監、東京都建設局公園緑地部長、国土交通省都市局公園緑地・景観課緑地環境室長、公園緑地・景観課長などを歴任。

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