パブリックで輝くひと【第3回】「いばらの道」を突き進む、改革者・尾崎えり子という生き方(前編)

<パブリックで輝くひと> 尾崎えり子さん
奈良県生駒市教育指導課教育改革担当
(株)新閃力代表取締役社長/ICT授業作家

<聞き手>
WOMANSHIFT 本目さよ(台東区議会議員)
たぞえ麻友(目黒区議会議員)

(インタビュー実施日:2021年8月30日)

「パブリックで輝くひと~多様なキャリアが社会を動かす~」第3回のインタビューは、社長として会社を経営しながら、奈良県生駒市の教育指導課で「教育改革担当」を務めており、誰もが驚く“官と民のパラレル&テレワーク”を実現させた、尾崎えり子さんです。尾崎さんは千葉県流山市に居住しながら、2020年4月より「プロ人材」として生駒市の教育改革に尽力されています。生駒市とは月8日間の契約で、連続した4日間生駒市へ通勤し、あと4日流山からテレワークという働き方です。

“社長と公務員を兼務”というだけでも、途轍もないキャリアですが、尾崎さんが2016年に立ち上げたシェアサテライトオフィス「Trist(トリスト)」(千葉県流山市にある「家族」「仕事」「地域」3つとも大切にできる、新しい形のシェアオフィス)は企業・地域・ママたちから大絶賛で話題を呼び、メディアにも多数取り上げられています。それだけでなく、日本マイクロソフトの協力を得て「テレワーカー育成プログラム」を開発したり、1からプロデュースした民間学童「ナナカラ」が好評を博して6教室に拡大したり、太田プロダクションのお笑い養成所に通ったり。1度きりの人生を、思う存分楽しみ尽くす、そしてスピーディーに結果を出す。そんな尾崎さんに、官と民の両方で働く意義や大事にしている思いを伺いました。

「Trist」

打ち合わせスペースも充実しているので、異業界・異職種同士のコラボも自然と生まれる環境「Trist」

「いばらの道」が好き。改革したいなら、私。

たぞえ 生駒市の教育指導課教育改革担当となられて、約1年半が経ちました。実際、生駒市の教育改革に関わってみていかがですか?

尾崎さん 最高ですね!私は「親の文化資本に寄らない経験と人脈をすべての子どもたちが享受できる社会」を作りたいんです。そのために、日本の公教育を変えたいので、どの自治体だったら早く実績を作れるのかというのを考えていました。スピード感を持って変えていけるという意味で生駒市は最高の職場です。

たぞえ 戦略的に自治体を選んだということでしょうか。

尾崎さん 奈良県生駒市は「副業・兼業OK」「テレワークOK」という条件で「プロ人材」(社会人採用)を募集していて、「教育担当」ではなく「教育改革担当」というポジション。「変革」を求めて採用活動をしていたのが、日本全国で生駒市だけでした。千葉県流山市で自社を経営しながらチャレンジできる場所は一つだけだったというわけです。

本目 1か所だけ受験して、高倍率(197人中2人採用、98.5倍)の中、採用を突破されているわけで、本当にすごいなと思いました。生駒市が尾崎さんを採用しようと決めた理由については、どう分析されていますか?

尾崎さん 採用面接の中で「改革をしたいのなら、私です。いばらの道が好きです」とお話ししました。また、採用試験のやり方に改善の余地があるなと感じたので、「せっかく応募者がこんなにたくさんいるのだから、生駒のファンになって帰ってもらうには、ここを改善した方がいいと思います」と提案をしながら、採用試験が進んでいったという感じです。

たぞえ 想像を超えていました。採用試験の在り方について提案をするなんて、聞いたことがないです。

本目 先ほど「最高です」とおっしゃいましたが、どんなところが最高なのですか?

尾崎さん 教育長をはじめ、教育こども部のメンバー、学校の先生、地域の方々がチャレンジを全力で応援してくれる環境があるからです。もちろん、最初から最高の環境があったわけではありません。最初は私も「公務員の世界」という全く分からない領域への進出は不安でした。同じように「テレワークで教育改革しにくる人」の受け入れは、職員や先生も当然不安だったと思います。

その状態から何をしたかというと、主に三つあります。一つ目は、「周りの信頼を得るための地道な作業」です。改革をしに来たから改革しかしませんというスタンスではなく、私が入職したタイミングの2020年4月はちょうどコロナで大変な時だったので、まずは日本全国の休校情報を調べました。北海道から沖縄まで、すべての教育委員会のホームページを見て給食の有無、部活動の実施状況、運動会の開催可否などの情報を整理しました。また、先生方がYouTube に授業動画をアップした後には、動画500本を全部見て、アクセス解析を行いました。いったいどの学年のどの教科のどのような動画だったら、子どもたちは継続して見られるのか、調べてレポートを提出しました。とにかく教育指導課(職員は教員が異動してくることが多い)の方々が今必要だけど時間がなくてできないことをサポートする作業を繰り返すことで、先生たちに少しずつ信頼してもらうことができたと思っています。

二つ目は、「現場の先生の希望を叶えること」です。現場の先生のところに行くにあたって、最初から私が企画を持って行くことはなく、まずは先生の希望を伺うようにしました。先生が「これがやりかったけど今まではできなかった」「やりたいけどどうしたらいいか分からない」とおっしゃられたことに対して「じゃあ考えます!一緒にやりましょう!」というふうに。私自身は先生方を教育のプロフェッショナルとして物凄く尊敬していますし、私には到底できないことをやってらっしゃるので、一緒に力を合わせれば絶対に面白いことができると確信していました。丁寧にやり取りを積み上げていくことによって、先生方から「尾崎さんはやりたいことを手伝ってくれる人なんだ!」と思っていただけたのではないでしょうか。

三つ目は、「最後までやり遂げること」です。どこの学校でも、最初は私みたいに急に登場した人物の提案は、受け入れ難かったと思います。新しいものに抵抗があるのは、どんな組織でも当然のことです。先生からのご相談にはなるべく早く解決方法を提示し、「一緒に作っていきましょう!」と共に作っていくスタンスを大事にしました。そうすると次第に「この人よく分からないけど、責任感もって最後までやり遂げてくれる」「尾崎さんと一緒に何かやりたい!」と思ってもらえるようになった気がします。今では待ってもらっている学校もあり、時間が足りないです。

たぞえ すごいです!尾崎さんを突き動かす原動力は、教育を改革したいという強い気持ちなのでしょうか?

尾崎さん 正直に言うと「社会を変えて世界から認められたい」という自分の欲が原動力です。教育改革はそのための手段なので。自分の夢を追っているだけなので「なんで分かってくれないの?」とか「協力してくれないの?」と思わないんです。むしろ、「え、協力してくれるの?!ありがとう!!!!」という気持ちです。自分の欲を満たすためには多くの人を幸せにする必要があり、そのフィールドとして私は公教育を選びました。

公教育の中で1つ事例を作ることができれば、一気に横展開することができ、インフラにできます。民間はスピード感を持って進めることができますが、インフラにするには相当時間がかかります。企業規模も必要です。教育を手段に社会をもっと面白く変えるには民間と公教育の両面から進めた方が早いと考えたので、2足の草鞋を履いています。

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