まちの魅力は「競争」、インフラは「共有」~楠瀬耕作・高知県須崎市長インタビュー(4)~

高知県須崎市長 楠瀬耕作
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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全国に先駆け、下水道でコンセッション

小田 須崎市は2020年、全国に先駆けてコンセッション方式による下水道事業の運営を開始しました()。これは施設の所有権は行政が持ちつつ、維持管理や改築を含めた運営権を民間事業者に委託するという取り組みですが、どのような経緯で始めたのですか?

楠瀬市長 前々市長の時代に、下水道法に基づき整備が始まりました。当時の法律では、雨水対策と下水対策を行うエリアは同一である必要がありました。市としては雨水対策をメインに実施したかったのですが、当時の下水道法を考慮した上で計画を進めました。

最初に雨水対策を完了させましたが、1基当たり100億円のポンプを8基使用することになりました。雨水対策をしたエリアは、満潮時に雨が降ると自然流下しない特性があったからです。このため、ポンプで強制的に雨水を排出する措置を取りました。

次に、法に基づいて下水道整備に着手し、対象エリア全体の汚水処理ができる規模の終末処理場を造りました。そして運用を開始したわけですが、施設の規模の大きさに対し、実際に処理する汚水が少ない状態が続き、数年で財政難に陥りました。そのうちに施設の老朽化が進み、いよいよ根本的な見直しを迫られました。

 

図 事業対象施設と事業方式(出典:須崎市)

 

そこで、国の実証実験(国土交通省の下水道革新的技術実証事業「B─DASHプロジェクト」)に手を挙げたのです。終末処理場はダウンサイジングし、代わりにバイオマス型の汚水処理を導入する案を国に提出し、採択されました。

その結果、市の財政負担が軽い形で建て替えが実現しました。

その後も、繰出金をいかに少なくするかという議論を行う中で、運営の民間委託という選択肢が出てきました。検討を進めた結果、コンセッション方式の導入に至った次第です。

 

小田 検討の過程で、議会や職員からインフラを民間に任せることへの反発はなかったのですか?

楠瀬市長 議会からは心配する声が上がりました。職員は、市内の下水道の様子を直接確認していましたから反対はしませんでしたが、不安は抱えていたと思います。

パートナーになっていただいた民間企業からは、下水処理に関するさまざまなアドバイスを頂きました。幾度となく調整を重ね、下水道処理(汚水)と関連インフラの維持管理、それに農業集落の排水施設の維持管理を組み合わせたバンドリング型事業を民間に委託しました。従来のコンセッション方式とは異なり、施設や設備の改築更新は委託していません。

 

小田 本連載で以前に取り上げた神奈川県葉山町は、同県逗子市と下水道事業の広域化・共同化を検討しています(神奈川県葉山町長インタビュー記事)。その運営にコンセッション方式を採用しようという取り組みです。こうした動きは今後、全国的に広がるでしょう。

楠瀬市長 これからは上水道の運営も問題になります。民間に運営を委託したとしても、人口減少で供給する水道量が減る中で企業会計をどう維持するのか。県内の自治体はこの課題に直面しています。恐らく広域化の議論が出てくるでしょう。

 

小田 インフラの広域化・共同化を巡っては、合意形成に困難さが伴います。ごみ処理を例に挙げると、処理施設の立地や自治体ごとの負担割合、分別やリサイクルの基準など、住民感情に配慮しつつ決めなければならないことが数多くあります。その点については、どうお考えですか?

楠瀬市長 須崎市は既にごみ処理を近隣の町と広域化しています。消防行政も広域で行っているため、「上水道だからできない」という特別な理由は恐らく出てこないと考えています。

 

小田 合意形成を前向きに進める土台は既にあるのですね?

楠瀬市長 同じ問題を抱えていますから、意思疎通はしやすいと思います。

 

小田 既にインフラの広域化・共同化に取り組んだ経験から得た知見を伺えますか?

楠瀬市長 難しさを感じるのは、電算業務の広域化・共同化ですね。自治体ごとにベンダーが違うのが大きな理由です。システムの仕様もそうですが、業務フローが大きく異なるので、広域化・共同化の際には標準化に苦労しそうなイメージがあります。

しかし須崎市のような人口規模の自治体であれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)は単独で実施する事業ではないと考えています。まずは税務業務のような、比較的標準化しやすい分野から始める必要があると感じます。

 

小田 仕組み自体もそうですが、オペレーションを担う人材を自治体間で共有する発想が持ち上がっています。

楠瀬市長 持続可能なまちづくりという観点で、窓口になる人材も含めた共同化を検討する余地はあると思います。

 

カギは人材育成

小田 これまでのお話から、須崎市は未来を見据えた施策を粛々と進めている印象を持ちました。庁内全体で課題に対し、逆算的に考えていく文化があるのでしょうか?

楠瀬市長 かれこれ5年ほど、政策推進会議を実施しています。年に4回、3月と5月、8月、12月に開いています。まずは年度の始まりに向け、各課に現状の課題と、解決策となる政策を考えてもらいます。それを実行してみて、進捗や結果はどうだったかと、PDCAサイクル(Plan〈計画〉─Do〈実行〉─Check〈点検〉─Action〈改善〉)を回し、各回で振り返りができるような体制にしています。

ただ、PDCAがきれいに回らないこともよくあります。これは組織的な課題です。もしかしたら業務が属人的になっているからかもしれません。原因を突き止めることと、そこからの改善を急いでいます。

もう一つ課題があります。人材育成です。結局、まちおこしも庁内の組織統制も、人材がカギになります。一朝一夕で得られるものではありませんが、諦めることなく取り組んでいきます。

 

小田 その人材育成に向け、「須崎未来塾」(第2回参照)の第2弾を考えたりはしないのですか?

楠瀬市長 プラスアルファの工夫を取り入れた人材育成プログラムをつくる必要はありますね。

 

小田 須崎市のように地理的要件が厳しい地域では、まちづくりに創意工夫が求められます。今後の自治体経営の勘所はどこにあると考えていますか?

楠瀬市長 自治体間で「競争」と「共有」の使い分けが重要になるのではないかと考えています。その土地の文化や歴史は固有のものです。それらを魅力と認識して磨き上げ、自治体間で競争すれば、さらに魅力が増していくでしょう。一方でインフラや教育、福祉といった暮らしの基盤となるものは、自治体間や民間との連携が必要になってくると思います。共同化が可能なものは官民を問わず、手を取り合って運営していくことが時代に合っているでしょう。

そして「競争」と「共有」の使い分けができる人材を育成することが、何よりも重要です。物事に対する前向きな姿勢や取り組み方、論理的に考えることができる力などを基礎として身に付けてこそ、先の見えない時代の中で答えを見つけることができるでしょう。

須崎市では、これらの能力を幼少期から身に付けられるような教育プログラムを始めました。長いスパンの取り組みですが、今後は近隣の市町と連携して進めていきたいと考えています。

 

【編集後記】

厳しい地理的要件の中、さまざまなステークホルダー(利害関係者)とまちの持続可能性を高めるための取り組みを続ける須崎市。課題から目をそらさず、試行錯誤をしながら一歩ずつ進んでいく様子がうかがえました。楠瀬市長と職員の柔軟な姿勢と発想で、須崎市の住みやすさと魅力が磨かれることを期待しています。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年4月3日号

 


【プロフィール】

高知県須崎市長・楠瀬 耕作(くすのせこうさく)

1960年生まれ。高知県土佐市出身。東京経済大経営卒。東京の部品メーカーや同県須崎市のタクシー会社に勤務。タクシー会社の社長時代に地元ケーブルテレビ局の開設に尽力。須崎商工会議所副会頭などを経て、2012年2月須崎市長に就任。現在3期目。

 

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