基礎自治体・広域自治体・国の役割分担~髙橋勝浩・東京都稲城市長インタビュー(3)~

東京都稲城市長 髙橋勝浩
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、東京都稲城市の髙橋勝浩市長インタビューをお届けします(写真)。

前回までは「自治体の組織づくり」「行政の広域化」をテーマに、就任後に行った市役所の組織改正や、都内の区市町村(島しょ部を除く)で唯一、単独で消防組織を運営している理由について伺いました。これらの取り組みに共通するのは「何のための組織か」「何を最も重要視するのか」という目的意識です。髙橋市長はそれをベースとして都市経営に当たっています。

今回からのテーマは「基礎自治体・広域自治体・国の役割分担」です。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

写真(上)
写真(下) 髙橋市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

広域自治体の本来の役割

小田 東京都はさまざまな点で他の道府県と性質が異なりますが、髙橋市長の目にはどのように映っていますか?

髙橋市長 他県の市長と話すと、国・県・市の役割を教科書的に整理されている印象を受けます。一方で東京都は、広域の地方自治体であることは間違いありませんが、財政規模は欧州の一国ほどあります。このため自治体でありながらも、常に国と張り合う構図ができるように思えます。国に対抗するような施策を都が先出しするということも、よくあります。

広域自治体の本来の役割は、3層構造の中間団体として国と市町村の関係を取り持つこと、そして市町村ができないことについてサポートすることです。

現在は3層構造であるが故に、行政の仕組みが複雑になっている部分も見受けられます。都と市町村の業務分担をもっと明確にし、都が直接着手しないことについては、市町村に財源ごと、業務を移譲する必要があると考えています。

 

道州制は賛成だが…

小田 今のお話は道州制の議論にもつながってくると思います。

髙橋市長 道州制の導入には賛成しますが、国からの強制を前提とするのであれば反対です。ただ、中間団体の都道府県が存在することで支障を来しているのであれば、そこは改善していかなければなりません。

よく聞くのが、

▽国、都道府県、市町村の間で事業仕分けができておらず、着手までに時間がかかる
▽都道府県と市町村の間にあつれきがあり、仕事がしづらい
▽市町村に業務は下りてくるが、財源が移譲されず、下請けのようになっている

──といった声です。こうした体質に関しては正していく必要があります。

 

小田 基礎自治体・広域自治体・国の役割分担の明確化がカギを握りますね。

髙橋市長 おっしゃる通りです。国、都道府県、市町村の業務範囲と分担を明確にした上で、市町村単位ではできないもの、かつ都道府県がなすべきものは広域連携するというような整理が必要です。

個人的には市町村が単独でできないことでも、近隣自治体と一部事務組合を組織して広域化すれば、十分に対応できると考えています。一昔前は「市町村には力がない」とやゆされることもありました。しかしインターネットが普及し、デジタル技術が進化した現在は、それらも活用しながら工夫して施策を行い、国と対等にやりとりすることも可能だと思います。

 

集中と分散

小田 あらゆる分野で行政の広域化・共有化が議論されていますが、特に今、国全体のテーマとなっているのが「デジタルの共有化」です。電算事務は各自治体で仕様が全く異なるため、その統一は困難を極めています。この点については、いかがですか?

髙橋市長 根本的なところから意見を述べると、戦後の民主化政策の中で地方分権が進み、「国がすべて牛耳らないことが正義だ」という意識が醸成されたことが大きいと考えます。国が決めた指針に何の疑いもなく従うことに対し、アレルギー的な反応が表れるようになりました。その結果、国と都道府県・市町村の有する権限の境界が曖昧になっています。

新型コロナウイルスのワクチン接種に関しても、同じようなことが言えます。当初は感染症予防法に基づき、国から「2022年3月31日までに全国民に2回ずつワクチンを打つこと」とする指示書が来ました。国からの命令なので、自治体には遂行の義務が生じます。

ところが、人権問題や副反応に絡んで反対運動が巻き起こったことで、ワクチン接種の追加実施は市町村に任されました。だんだんと権限が曖昧になっていったわけです。

 

私は日頃から職員に対し、「集中と分散」について説明しています。例えば国防や防疫、医療など、地方分権で分散させたらとんでもないことになる分野については、国が集中的に管理する。一方で介護保険制度のように、それぞれの地域の実情に合わせた方策を考えた方が良い分野に関しては、地方ごとに管理する。

このように、結果がばらばらでも問題のない分野は責任や権限ごと、各所管に移譲すればよいと考えています。国が集中的に実施するのであれば、地方に権限を渡さない。これくらい明確に分けるべきです。

しかし今は、国が一元管理するものと分散管理するものの仕分けが曖昧です。すべての分野で国の領分、都道府県の領分、市町村の領分というように、縦系統で業務がオーバーラップしています。

デジタルの共有化についても、根本的には国と自治体の関係性を巡る問題が横たわっていると思います。

 

基礎自治体からの「本気の訴え」

小田 国と自治体の関係性を変えるためには、基礎自治体が本気で訴えていくしかないと感じます。

髙橋市長 現在の全国市長会は、国に対して正当な要望を行う方針です。会長の立谷秀清・福島県相馬市長を筆頭に、「闘う市長会」であろうとしています。

また「国と地方の協議の場」が、自治体の声を国に届ける上で大きな役割を果たしています。重要案件について、全国市長会の会長、所管する委員会の委員長とそのメンバー、そして担当の大臣ら、権限のある人たちが直接協議できます。この場を活用すれば、国と都道府県の業務は仕分けできるでしょう。

一方で、同じような仕組みが都道府県と市町村の間にはありません。これはつくるべきだと思います。そうすれば国・都道府県・市町村の業務のオーバーラップは、解消に向かうのではないでしょうか。

 

小田 国と都道府県、市町村の役割をきちんと仕分けする必要はあるでしょう。それを具体的にどう進めていくかと考えたとき、国や都など大きなところから変えようとするのは、現実的には難しいと思います。やはり基礎自治体の声を届けることが大切ですね。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年6月5日号

 


【プロフィール】

東京都稲城市長・髙橋 勝浩(たかはし かつひろ)

1963年生まれ。早大政経卒。85年東京都稲城市に入り、市立病院医事課長、財政課長、会計管理者、生活環境部長などを歴任。2011年4月稲城市長に就任し、現在4期目。1986年4月から2000年3月まで稲城市消防団に所属。

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