災害リスクを「自助・共助・公助」で乗り越える~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(1)~

北海道登別市長 小笠原春一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/11/06 災害リスクを「自助・共助・公助」で乗り越える~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(1)~
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2023/11/13 DXで住みよいまち、働きやすい市役所へ~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(3)~
2023/11/16 DXで住みよいまち、働きやすい市役所へ~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(4)~

 


 

人口が減少の一途をたどる縮退社会においては、限られたリソース(資源)でさまざまな課題解決を迫られます。加えて、昨今は大規模災害が増加傾向にあるという外的要因も、都市経営の難しさに拍車を掛けます。

そんな中、北海道登別市の小笠原春一市長は「自助・共助・公助による災害対策」「『住みよいまち』と『働きやすい市役所』を実現するDX」という切り口から、持続可能なまちづくりに挑戦しています。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

大規模停電時の対応が教訓に

小田 少子高齢化や人口減少が進む中、全国の自治体は自然災害リスクへの備えを強化していく必要があります。登別市の地域防災計画を拝見すると、特に「自助・共助・公助」の役割を明確に定めていますね。

小笠原市長 大きなきっかけとなったのは、2012年11月に起きた暴風雪による室蘭・登別方面の大規模停電です。送電線の鉄塔が倒れたことで、市内を中心とした広い範囲で最大4日間の停電が起こりました。

市は当時、避難所を開設するなどの対応に当たっていました。同時に連合町内会が役員を中心に協力し、自主的に災害対応に動いてくださいました。こうした取り組みによって、市民から苦情が全く出なかったのです。

このとき、私は「自助(市民及び事業者が自らの安全を自らで守ること)」「共助(市民等が地域において互いに助け合うこと)」「公助(道、市及び防災関係機関が実施する対策)」の大切さを肌で感じました。その教訓から、市の地域防災計画の基本に「自助・共助・公助」を据えたのです。

 

小田 町内会の皆さんは、具体的にどのような行動をされたのですか?

小笠原市長 停電が起きたときは市役所内も真っ暗になり、市民に正しい情報を提供することもままならない状態でした。そんな中、連合町内会の役員らが協力して、それぞれの地区内を駆け回り、情報を集めて市役所に持って来てくださったのです。彼らは「われわれが情報収集を担うから、市はそれを基にして危険な箇所に物資を運んでほしい」とおっしゃいました。自助と共助が自然発生した瞬間でした。

今日まで行政と町内会の協力体制をより強固にするための取り組みを進めてきましたが、当時の出来事がとても大きな教訓になっていることは間違いありません。19年には、連合町内会が行った災害時の初期行動マニュアルの策定と情報伝達網の整備が、市民への情報伝達体制の構築に寄与したとして「防災功労者 内閣総理大臣表彰」を受けました。

 

多様な地理的要件から生まれる災害リスク

小田 市民の防災に対する意識が非常に高いのですね。登別市の地理的要件からは、どのような災害リスクが考えられるのでしょうか?

小笠原市長 市の東南部は太平洋に面しています。北部は火山地帯で、その中に登別温泉やカルルス温泉があります。また、火山灰性の土壌に覆われた水はけの悪いエリアや、河川によって形成された低平な扇状地もあります。このように多様な自然環境に囲まれているため、地震、火山、津波、浸水など災害リスクは多岐にわたります。

特に最近は水害が危惧されています。国は昨年、日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震で津波が発生した場合、特に著しい津波被害が生じる恐れがあるとして、道内の39市町を「特別強化地域」に指定しました。登別市も含まれており、想定される津波の高さは12メートル近くになるといわれています。水害は津波だけではありません。地理的に突然、積乱雲が発生しやすいこともあり、大雨のリスクにも対応する必要があります。

 

小田 さまざまな災害リスクに対し、市はどのように備えているのですか?

小笠原市長 防災関係機関と日頃から顔の見える関係性を築き、協力体制を構築しています。特に大雨に起因する災害については、市内の降雨量やダムの放流状況を詳細に確認し、市民に適切な避難情報を速やかに届けられるよう取り組んでいます。さらに、行政のみでの対応が困難な場合に備え、民間企業との連携を進めています。今年は応急仮設住宅や電気自動車の活用に関する防災協定を締結したところです。

また防災マップは紙版に加え、手軽に確認できるよう、ウェブ版も提供しています。多言語対応を行っており、外国人の方にも見ていただけるようになっています。

市民向けの防災訓練や啓発活動は、もちろん実施しています。自主防災組織に対しては、講演会や図上訓練などを通じ、防災能力や意識の向上を図っています。また市の独自事業として、防災資機材の補助を行っています。関係機関や連合町内会を含めた総合防災訓練は隔年で実施しており、多くの市民が参加しています(動画)。

情報の伝達、避難の手順、災害対策本部の運営、避難所の設営・運営など、訓練を通して自助・共助・公助が果たす役割を理解していただいています。

 

(動画)市の公式ユーチューブでは総合防災訓練の様子が確認できる(出典:登別市)

 

小田 市の本庁舎移設が進んでいるそうですが、こちらも災害対策と関連がありますか?

小笠原市長 市役所の本庁舎と消防本部の庁舎を、津波や洪水の浸水区域外となる高台に移設します。津波が来るという前提に立ち、検討した結果です。消防本部庁舎は今年度中に、本庁舎は26年度に竣工予定です。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年10月2日号

 


【プロフィール】

北海道登別市長・小笠原 春一(おがさわら はるいち)

1967年生まれ。北海道登別市出身。東京農業大農卒。民間企業の専務取締役を務める傍ら、登別室蘭青年会議所理事長などを歴任。2008年登別市長に初当選し、現在4期目。

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