
2026/7/22 ー 業務可視化は、自治体経営の判断基盤である ー 人口減少時代に求められる、資源配分のための業務把握 ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~
2026/7/23 ー 業務可視化は、自治体経営の判断基盤である ー 人口減少時代に求められる、資源配分のための業務把握 ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~
必要なのは、資源配分のための業務可視化
人口減少時代の自治体経営において、資源配分は最大の課題の一つです。
かつては、仕事が増えれば人を増やし、事業が増えれば予算を増やすという対応がある程度可能でした。しかしこれからは、その前提が成り立ちません。人材確保は難しくなり、財政制約は強まります。行政需要は複雑化し、住民が求めるサービス水準も容易には下がらない。
だとすれば、自治体は「すべてを同じように続ける」という発想から脱しなければなりません。何を守り、何を強化し、何を簡素化・標準化し、何を外部と連携し、何を縮小・廃止するか。この判断を先送りし続ければ、職員の負担は積み重なり、現場の疲弊は深まるだけです。
ただし、ここで言う資源配分は、削減を目的とするものではありません。重要な業務に必要な人員と専門性を確保するためにこそ、実態の把握が求められます。守るべき仕事を守り、強化すべき領域に力を振り向ける──そのために、業務を経営情報として見えるようにします。
業務を「多い・少ない」だけで見るのではなく、重みを見極める。量だけでなく、政策的重要性・住民影響・リスク・専門性・属人性・法定性・裁量性・標準化可能性を合わせて見る。そうすることで、業務をポートフォリオとして捉えることができます。
住民生活への影響が大きく専門性も高い業務は、人材育成や体制強化の対象です。
量は多いが定型性が高い業務は、標準化・自動化・共同化の候補になります。重要度が相対的に低く慣行的に続いているものは、縮小や廃止を検討する余地があります。属人化しているものは、ナレッジ化と引き継ぎ体制の整備が必要です。
DXも内部統制も、業務の実態把握なしには進まない
業務実態の把握は、DXや内部統制の前提でもあります。
自治体DXというと、電子申請・AI(人工知能)・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)・システム標準化・オンライン窓口など、技術やツールに目が向きがちです。しかし、仕事の流れや判断・例外処理・部署間の役割分担が見えていないままデジタル化を進めても、十分な効果は得られません。
紙の申請をそのまま電子化する。住民側の入り口だけデジタル化し、内部処理は手作業のまま残る。こうした事態は珍しくありません。
問題は技術知識の不足ではなく、業務理解の不足です。何を簡素化し、何を標準化し、何を自動化し、どこに人の判断を残すか。その設計なしにツールを導入しても、現場の負担が増えるだけに終わります。
内部統制についても同じです。業務が見えていないということは、改善対象だけでなく、リスク・負荷・属人化も見えていないということです。
根拠規定と実際の運用がずれている。特定の職員しか処理できない仕事がある。マニュアルが実態と合っていない。個人情報や会計処理のリスクが現場の経験だけに依存している。
こうした状態は、単なる非効率ではありません。組織運営上のリスクです。
業務の目的・根拠・処理手順・判断基準・担当・必要な知識・負荷を把握して初めて、組織として統制できる状態に近づきます。そのためにも、業務可視化は「DXの前工程」や「改善活動の一部」ではなく、自治体経営の基盤として位置付けなければなりません。
現場に負担をかけない可視化へ
業務可視化は、進め方を誤ると現場に大きな負担をかけます。典型的なのは、全庁に調査票を配り、すべての仕事を一から書き出してもらうやり方です。何度もヒアリングを重ね、膨大な一覧表を作る。こうした進め方は、現場に多大な時間と労力を求めます。
職員不足が深刻化する中、可視化の手法そのものが負担を増やすものであっては本末転倒です。
求められるのは、現場にゼロから書き出してもらうことではなく、庁内にすでに存在する情報を生かすことです。自治体の中には、業務を読み解く手掛かりがすでにあります。問題は、それらが経営判断に使える形で整理されていないことです。
もちろん、既存情報だけですべてを把握することはできません。業務量・実際の処理の流れ・繁忙期・属人化や例外対応は、現場に確認しなければ分からないことも多い。それでも、最初からすべてを書き出してもらう必要はありません。
まず庁内の情報から全体像と課題仮説を組み立て、確認すべき論点を絞り込む。その上で、必要な範囲に限定して現場に確認する。
この順序によって、負担を抑えながら経営判断に必要な情報を整えることができます。
また、従来型の可視化は、全業務を網羅的・細密に見ることに力点が置かれがちでした。しかし人口減少時代に必要なのは、すべてを同じ粒度で見ることではありません。まず全体構造をつかみ、重要な論点を選び、必要な部分を深く見る。この優先順位が重要です。
業務可視化の方法論を、自治体の実務に合わせて確立する
ここで重要なのは、この考え方を理念にとどめず、自治体の実務で使える方法論として確立していくことです。
業務可視化の必要性は、多くの自治体で認識されつつあります。しかし、どこから着手し、庁内に点在する情報から何を読み取り、得られた情報を人員配置・DX・内部統制にどうつなげるか、その道筋はまだ十分に整理されていません。
既存情報をどこまで活用できるか。どのような項目で分類すれば経営判断に使える材料になるか。どの粒度で整理すれば、現場負担と活用可能性のバランスが取れるか。こうした問いを、実践と検証を通じて具体化していくことが求められます。
着手の進め方はすでに述べた通りです。重要なのは、その実践を積み重ねながら、どの項目で分類すれば経営判断に使える材料になるか、どの粒度が現場負担と活用可能性のバランスを取れるか、自治体の実情に合わせて方法論を磨いていくことです。
可視化を「調査」で終わらせないことです。実態を把握した上で、どこに人を置くか、何を標準化するか、どこにデジタル技術を使うか、どのリスクを組織として管理するかを考える。そこまでつながって初めて、業務可視化は自治体経営の力になります。
おわりに
これからの自治体改革は、新しい施策を打ち出すだけでは進みません。自分たちの組織が何に力を使い、どこに課題を抱え、どこに可能性があるかを知ること。それが改革の出発点です。
経験や勘が不要になるわけではありません。長年の実務感覚や現場の知恵は、これからも欠かせません。しかし、それだけで資源配分を判断することは、もはや難しくなっています。
前年と同じだから、これまで続けてきたから、要望が強いから、目立つ課題だから、トラブルが起きているから、そうした理由だけで人員や予算の配分を決め続けることは、もう限界に近づいています。
これからの自治体経営には、判断の根拠が必要です。どの業務に資源が投入され、何が住民価値につながり、どこにリスク・属人化・改善余地があるのか。そうした情報を整えることが、業務可視化の本来の役割です。
業務可視化は、調査で終わるものではありません。自治体が自らの仕事を知り、何を守り、何を変え、どこに力を集中するかを判断し続けるための経営の基盤です。
人口減少時代において、自治体は「何を続けるか」だけでなく、「何を変えるか」「何をやめるか」、そして「どこに力を集中するか」を判断しなければなりません。
その判断の出発点に、業務可視化があります。この考え方を実務に落とし込むには、具体的な手順と検証が必要です。
現在、筆者は複数の自治体と連携し、既存情報を活用した業務可視化の実証プロジェクトを進めています。
どのような情報を使えば業務の全体像を把握できるのか。
現場負担を抑えながら、どこまで経営判断に使える材料を整えられるのか。
人員配置、業務改善、標準化、デジタル化、内部統制にどうつなげられるのか。
プロジェクトの進行とともに、具体的な手順や得られた示唆を本連載で順次お届けしていきます。
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年6月8日号

