
兵庫県宝塚市長 森臨太郞
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2026/10/14 「対話と決断」の自治体経営~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(1)~
2026/10/15 「対話と決断」の自治体経営~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(2)~
2026/10/21 国際的な視点から見る、少子化・高齢化対策の本質~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(3)~
2026/10/22 国際的な視点から見る、少子化・高齢化対策の本質~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(4)~
東アジアの中で日本の出生率が高い理由
小田 日本は東アジアの中で出生率が高いですが、このことを知らない人も多いと思います。
森市長 知らない方は多いと思いますね。日本の合計特殊出生率は1.14ですが、韓国やタイ、中国は1を切っています。
小田 なぜ日本の出生率は東アジアの中でも高いのか。市長の中で仮説はありますか。
森市長 いろいろな国で働いてきましたが、日本は比較的、居心地のいい国だと思います。まず平和で安全。社会保障が整っていて、経済基盤もそこそこしっかりしている。もう一つは、社会が機能していることです。何かが壊れたら、専門家を呼べばちゃんと直ります。いきなり人に物を盗られることもほとんどありません。役所の人も、そこそこ信用できます。そういう国は、実はそんなに多くはありません。社会全体の安心感は、子どもを産もう、育てよう、ここに住み続けよう、という気持ちを育むとても重要な要素だと思っています。これらは「子育て支援策に幾ら使っているか」という比較分析では見えてこない部分です。
小田 日本にずっと暮らす人からすると、日本の安心感は実感を得にくく、人口減少というネガティブな情報が際立ってしまいます。
森市長 他国を悪く言うつもりはないのですが、ある国では、地下鉄に乗るとホームにヘルメットが並んでいたり、ビルの上を見ると高射砲があったりもする。まだ戦時中かもしれない国だという緊張感が、そういうところから伝わってくるのです。ある国では、警察に捕まってもお金を払えば何とか許してくれるというような、社会が機能しない部分があります。そういう意味で「安心できる」というのは、とても大きな要素です。
ただし、それも結局は今住んでいる人、そしてこれから住む人にとって「いいな」と思えるかどうかです。その局面においてのバランスが重要です。例えば、まちに監視カメラをどれだけ置けば安心につながるのでしょう。必要ではあるものの、置き過ぎればそれはそれで不安につながります。結局は、市民が何を望んでいるのか、というところに戻ってくるのだと思います。
宝塚市のまちづくりの展望

小田 今後、宝塚市をどういうまちにしたいとお考えですか。
森市長 宝塚市は、やはり住宅都市だと思っています。しかし、単なる住宅都市ではなく、ここに集まる人たちが育んできた文化があります。それから、緑も魅力の一つです。ご存じない方も意外と多いのですが、宝塚は三大植木産地の一つでもあります。六甲山系が並び、里山が広く残るエリアもあります。このように暮らしの周りに緑がある心地よさを、皆さん感じてくださっていると思います。
これら宝塚市が持つ文化的側面も、緑の側面も、より発展させていき、居心地がいいと思える場所を拡充していくこと。人口が減ったとしても続くまちというのは、こういう姿なのではないかと思っています。
小田 文化政策は目立ちづらいですが、長い目で見れば、じわじわとまちづくりに効いてくるものだと思います。
森市長 先日、市民の皆さんとの対話ひろばで文化の話題も出ました。博物館を造ったから文化的と言うのは違うだろう、と。文化とは、実は市民一人ひとりが持っているものではないかという話が、市民の皆さんから出てきました。「このまちは文化的だな」「みんなが文化を大切にしているな」と思えること。そんな共通の思いが守られることこそが、大事ではないかと思っています。
小田 最後に、全国の首長や自治体職員の皆さんに向けて、宝塚市のアピールや、森市長が伝えたいことをお話しください。
森市長 皆さんからいろいろ学ばせていただきたい、という気持ちが強いです。国連職員として働いていた時代から、各自治体が本当にさまざまな工夫をされていると感じていました。素敵な首長さんも多いなと思っています。宝塚の独自性があるとしたら、それは宝塚そのものが持っている独自性で、私自身が何かをつくっているわけではありません。ただ、自身の経歴からそれなりに頑張っているところは二つあります。
一つは、前回触れました「市民と市長の対話ひろば」(注1)です。いろいろ考えた上でこの形にしているので、参考にしていただけたら幸いです。もう一つは、私が「たからづかモデル」と呼んでいる、医療や福祉、介護、保健の連携です(注2、写真)。それを産業とも結び付けられるように考えているので、注目していただけると嬉しいです。
注1=市民の意見を聞くことを目的とした、議会の開かれない月に毎週開催される対話集会。森市長自身がファシリテーターとなり、一つのテーマに1カ月間かけて市民と対話する。
注2=市立病院の建て替えを起点に、医療・福祉・介護・保健を一体的に連携させようという構想。市は2025年度に有識者や市民委員による懇話会を重ね、関連施設の統合や、市立病院が担う役割を検討してきた。背景には、市民からの多額の寄付を機に前進した、新病院の整備がある。新病院は、病床を現在の436床から約310床へと見直し、全室個室化を予定。「人口が減るから減らす」のではなく、圏域で急性期病床が過剰となる見通しの中、実際の入院患者数や将来推計を積み上げ、「必要な医療を守りながら、将来も維持できる規模」として算出した。
【編集後記】
取材を通じて見えてきたのは、森市長の政策判断を貫く「本質に立ち返る」姿勢でした。
前編の「対話と決断」も、後編の言葉や人口を巡る話も、根底にあるものは同じです。少子化だから少子化対策を、高齢化だから高齢者ケアを、という誰も反対しない言葉に流されず、今本当に必要なことは何かを問い直す。森市長が示したのは、人口減少を嘆く言葉ではなく、今と近未来の市民に必要なことを公平に、地道に進めるという考えでした。
日本の出生率が東アジアで比較的高い理由を、森市長は「安心」と「社会が機能していること」とみています。派手な支援策の多寡では測れないその安心を、どう次の世代に手渡すか。住宅都市・宝塚の文化と緑を守り、発展させるという構想は、その問いに対する答えを形にするものと言えるでしょう。
対話ひろばや「たからづかモデル」といった具体的な取り組みの一つ一つに、国際的な現場を歩いてきた市長ならではの視点が表れています。人口減少を前提とした自治体経営の実践として、今後の宝塚市の動向に注目したいと思います。
(おわり)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年9月14日号
【プロフィール】

森 臨太郎(もり・りんたろう)
1970年生まれ。岡山大医学部卒業、同大学 院医学研究科博士課程修了、ロンドン大学 で公衆衛生学・熱帯医学大学院修士課程を 修了。小児科医として国内外で勤務した後、 英国・国立医療技術評価機構(NICE)、世界 保健機関(WHO)、東京大学大学院准教 授、国立成育医療研究センター政策科学研 究部長、国連人口基金(UNFPA)アジア太 平洋地域事務所地域アドバイザーなどを歴 任。2025年4月、宝塚市長に就任。

