石川県加賀市長 宮元陸
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
2021/03/15 石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(1)
2021/03/18 石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(2)
2021/03/22 石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(3)
2021/02/25 石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(4)
気になるベンチャー企業には市長自らコンタクト
伊藤 これまでいろいろな実証実験を、多くのベンチャー企業と行ってきたと思います。組む相手は、どうやって見つけておられるのですか?
宮元市長 ほとんど私が営業して、直接お話をしています。だから中には失敗もあるわけですよ。継続する場合もあるし、しない場合もあります。
伊藤 それは例えば、東京に来られた際に、市長の豊富なネットワークを通じてベンチャー企業を紹介してもらう、というような感じですか?
宮元市長 新聞で気になる記事を見つけたら直接電話したり、ネットで見つけた企業にメールしたり、そんな感じですよ。
伊藤 えっ!? 本当ですか!?
宮元市長 むしろ、そうやってアポイントを取ることの方が多いですよ。ネットで見つけた気になる企業にメールして、「あした時間ないですか?」と。それでいきなり会ってお話しする。そんな事例ばかりですよ。そういうことの繰り返し。
伊藤 衝撃です。自ら営業をされている市長さんは、日本でも数少ないと思いますが。
宮元市長 そうですか? 最近は若い市長さんが多いので、みんなそうやって活動しているのかと思っていました。私自身は直接営業のパターンがほとんどです。だから、相手のベンチャーさんの方が「本当に市長か?」と疑った事例は何回かありましたね。最初は胡散くさいと思われていたかもしれません。市の公式メールアドレスではなく、私個人の携帯メールから直接連絡しますから。
伊藤 本当にびっくりしました。フットワークがすごいですね。他の自治体では、なかなか真似できないような気がします。
宮元市長 フットワークというか、もう必死なんです。なりふり構ってられないんですよ。とにかく早くやらないといけない気持ちが強いです。
伊藤 そんなふうに、市長さん自らが直接話を聞かせてほしいとオファーしてくださったら、民間としては何か一緒にやってみたいと思いますよね。ですが、そうやって全く面識のないベンチャーに接触するから、うまくいかなかったという事例もたまに発生するわけですね。
宮元市長 そういうことです。もう我々もベンチャーと一緒ですよ。「当たって砕けろ」ばかり。
伊藤 我々もお付き合いのある首長さんに、「この会社は面白いですよ」とご紹介することがあります。当然、フットワークが軽い首長さんもいれば、慎重な方もいます。宮元市長のように「新しい挑戦なら、お互い分からないこともある。一緒に走りながら考えよう」のマインドを持つ市長さんは、ことの外少ないなという感じはします。加賀市民にとって、心強い市長さんですね。
宮元市長 どうなんですかね。「IT好きの市長」という印象があるのも、無きにしも非ずですけど。
伊藤 東京には細かい情報は伝わってこないんですよ。「この自治体がこんな新しいことをやっています」という表立った情報は得られますが、裏で市長がこんなに動いているなんて。
宮元市長 ちょっと変わり者なんですよ。
デジタル社会到来に向けて着実に基盤を固める
伊藤 今、加賀市のマイナンバーカードの普及率は50%を超えたくらいですか?
宮元市長 今(2021年1月31日時点)申請率は72・7%で、交付率は56・0%までいきましたね。我々としては今年度中に8割を目指したいと思っていますが、どこまでいくか分かりません。職員はみんな一生懸命取り組んでいます。
伊藤 マイナンバーカードは住民からするとベネフィット(恩恵)が見えづらく、なかなか申請に至らないことが多いと思います。そんな中、ここまで一生懸命普及に取り組まれているのは、一貫して仰られている「テクノロジーの分野でトップを狙う」という部分にリンクするからでしょうか?
宮元市長 いずれみんな、つながりますから。いわゆるデジタルインフラの基盤となるのがマイナンバー。個人認証もマイナンバーカードが基本になります。ですから、これがないと何も進みません。
今、電子申請ができる行政手続きの数を年度内に50〜100くらいまで進めていきたいと思っています。ただそれだけでは不十分で、やはり民間サービスとつなげていくような仕掛けをしないとインフラとしては機能しないですよね。
伊藤 かなり先を見ていらっしゃいますね。加賀市の場合は、マイナンバーカードを申請すると1人5000円が支給される仕組みですよね?
宮元市長 やはり申請を促すにはインセンティブがないと。ちょうどコロナの経済対策と抱き合わせで実施して、うまくいった手応えはあります。
伊藤 金銭的なインセンティブを使ってでもマイナンバーカードの普及率を高める意味というのは、いずれデジタル社会になった際に出遅れないように、ということですよね。つまり、発想と手段が両方頭にないと、今の段階で一生懸命予算を使わないと思います。これは宮元市長の先を見据えた視点ならではですね。
宮元市長 そんな立派なものじゃないです。ほぼ動物的な勘みたいなものです。何か決めるとき、私はいつも瞬間的ですから。ベンチャーさんとの話し合いでも「これは良い!」と思ったら、その場で組むかどうか決めます。何日か経ってお返事するということは、今までしたことがないですね。
伊藤 その場で決めるのですか。もう、スタートアップの社長と変わらないですね。
宮元市長 だから先ほどもお話しした通り、私自身ベンチャー企業みたいなものです。現場の職員は大変だと思います。いつもこの感じなので、少しずつ慣れてはきていますが。
テクノロジー系を担当するのは「スマートシティー課」で、昨年末から職員数を2倍に増強しました。いろいろなことを同時並行でやっていかないといけないので、そのための組織強化ですね。
伊藤 加賀市は全国の地方自治体の中でも、デジタル政策の先頭に立っています。どうしてそこまで早くからテクノロジー導入に積極的だったのか?理由を知りたいというのが、今回のインタビューを依頼した一番の動機でした。お話を伺うと、宮元市長の市に対する思いと、ベンチャー企業さながらのスピーディーな行動、決断の元で進んでいることが分かりました。
インタビュー(3)と(4)では、市長が思い描く「デジタルシフトした加賀市の未来像」を、深掘りしながら伺っていきます。
(第3回につづく)
【プロフィール】
宮元陸(みやもと・りく)
石川県加賀市長
1956年11月1日生まれ。法政大学法学部卒。衆議院議員秘書を経て1999年4月から石川県議会議員を4期務める。県議会副議長・県監査委員・県議会運営委員会委員を歴任したのち、2013年10月に加賀市長に就任。現在は2期目。ウォーキングと水泳を趣味にしている。
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。