前茨城県つくば市副市長 毛塚幹人
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
2021/07/05 柔軟なキャリアと発想で市政をけん引、若き副市長の軌跡(1)〜つくば市最年少副市長のスタートアップ戦略を振り返る〜
2021/07/08 柔軟なキャリアと発想で市政をけん引、若き副市長の軌跡(2)〜つくば市最年少副市長のスタートアップ戦略を振り返る〜
2021/07/12 柔軟なキャリアと発想で市政をけん引、若き副市長の軌跡(3)〜自治体の「強み」を活かしてつくるエコシステム〜
2021/07/15 柔軟なキャリアと発想で市政をけん引、若き副市長の軌跡(4)〜自治体の「強み」を活かしてつくるエコシステム〜
本記事では、第1回・第2回に引き続き、茨城県つくば市の元副市長毛塚幹人氏のインタビューを紹介します。前回までは、26歳の若さで副市長に就任するまでのキャリアの変遷と、就任後に力を注いだ「スタートアップ戦略(つくば市スタートアップ戦略:新たなビジネスモデルを開拓し急成長を目指すスタートアップ企業の支援を戦略的に推進するため、2018年12月に策定した戦略)」の概要について伺いました。今回からは、スタートアップ戦略で数々の実証実験を支援するために取り組んだ制度づくりや、地方創生に向き合うための考え方をインタビューしています。
つくば市で実証されたものを全国に広げる
伊藤 前回のインタビューで、つくば市にある研究所とスタートアップのつながりを深め、エコシステムを構築するというお話がありました。そしてその仕組みが、農業など他の産業にも応用(横展開)できると毛塚さんはおっしゃいました。
では、つくば市で実証されたものを全国に広げる、地域外への横展開についてはどんな見解をお持ちですか?
毛塚氏 つくば市でいろいろな取り組みを行う際には、「つくば市単独で考えない」ことを意識していました。例えば、新しい技術の実証実験をつくば市で無償で行っていただくことも可能にするため、例をつくった後には全国展開しやすいよう意識的に応援していくようにしています。そうすることで、つくば市の連携先としての認知度を高める効果もあります。
具体的な事例で言いますと、これは予算を使ったものになりますが、筑波大出身の医師の方が作った「医療相談アプリ」というものがあります。つくば市で2017年の社会実装事業に採択し、モニターを集めて実証実験を行いました。当時は想定していませんでしたが、新型コロナウイルスの影響で子どもたちが学校に検温結果の提出が必要となった際には、学校での回収の負担を少しでも軽減できるよう、紙の検温チェックカードの代わりになるものとして市内すべての公立小中学校の保護者が「医療相談アプリ」から家庭で体温を提出できるようにしました。全国的に新型コロナウイルスへの対応を行う中、このような学校でのアプリ活用が多くの地域に広がっています。
実は昨今話題のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)も、つくば市にて地方自治体では最初の実証実験を行っています。その時も行政では初の事例ということで予算確保が難しく、最初は無償での実証実験をお願いしました(下図)。しかし実証実験を行った後は、つくば市でも予算化をするとともに、100を超える自治体がつくば市へ視察に訪れるようになり、それで現在多くの自治体にRPAが広がって民間企業にとってはつくば市での実績がベースとなり新たなビジネスにつながっています。
このように、かつて小さく行った実証実験でも、別のケースで活用できるように経験をストックし、視野を自分たちの地域の外へ広げて可能性を模索することは大事だと思います。
伊藤 サステナブル(持続可能)な仕組みをどう設計するか? と考えたときに、ファイナンスは重要です。つくば市のように実証実験に先進的な自治体ならまだしも、これから挑戦する自治体にとっては、まだまだファイナンス面でハードルが高いような気がします。だから一部では、ベンチャーキャピタルやCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)が予算を出して、スピード感のある自治体と一緒にとにかく早くPDCA(計画、実行、検証、改善)を回すという動きも出てきています。
毛塚氏 予算を民間企業が出すという話は確かにありますが、それだけで、行政とのコラボレーションがうまくいくわけではないと感じています。やはり行政は公平性を重視しますので、民間企業とどのようにフェアに連携するかを考えます。つくば市ですと、無償の実証実験であっても連携事業の採択プロセスをつくっていますし、無償連携用の契約書も交わして、行政と民間企業の責任の範囲を明らかにしています。
伊藤 無償の実証実験であってもそこまでするのには、何か意図があるのですか?
毛塚氏 実証実験は職員のリソースをかなり使います。つくば市は毎年多くの実証実験の打診を頂きますから、自ずとその中から選ぶという状況が出てきます。その際、地域にとっての重要性や、外部から見たときの公平性を判断する基準が必要です。そのためのルールですね。
潮流としては、行政と民間が一緒に実証実験を行うことは当たり前になってきていて、よりスムーズに連携ができるような制度を整え、積極的にメディア等でPRすることで、実証実験の打診がさらに集まってくるという構図が見られます。
自治体の「強み」と「弱み」を明確に
伊藤 もしかしたら読者の中には、「研究が盛んなつくば市だから、実証実験を通じて官民連携ができるのではないか?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。全国1700の自治体が、それぞれのやり方で官民連携を進めていくことができると思いますか?
毛塚氏 自治体が自らの強みや弱み、課題を明確にしながら連携先を探すのが大事だと思います。つくば市もさまざまな側面を持っています。環境面で言えば海がないとか、つくばエクスプレスの沿線は都市部的な街並みで、その他の地域はのどかだったりとか。地理的な環境だけでなく、行政職員の得意分野も自治体によって違いますし、産業構造にもそれぞれの自治体の特徴があると思います。それらを強みや弱みとして認識しつつ、お互い補完し合えるような連携先を探すといいのではないかと思います。
あらゆる実証実験が特定の場所でしかできないとは全く思わないですし、場合によっては、一つの実証実験を複数の自治体で行うこともできると思います。
(第4回に続く)
【プロフィール】
毛塚 幹人(けづか・みきと)
前茨城県つくば市副市長
1991年2月19日生まれ。栃木県宇都宮市出身。東京大法学部卒。2013年に財務省に入省し、国際局国際機構課でG20やIMFを担当。近畿財務局、主税局総務課等を経て財務省を退職。2017年4月につくば市副市長に就任。“アジャイル行政”のコンセプトの下、政策企画、財政、経済振興、保健福祉、市民連携等を担当し、2021年3月末に任期満了に伴い退任。