佐藤淳一・福島県磐梯町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company
2021/09/27 巻き込みとアジャイルで進める自治体DX 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(1)〜
2021/09/30 巻き込みとアジャイルで進める自治体DX 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(2)〜
2021/10/04 先例にとらわれず、一人ひとりが考える組織文化をつくる 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(3)〜
2021/10/07 先例にとらわれず、一人ひとりが考える組織文化をつくる 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(4)〜
本記事からは前回(第1回、第2回)に引き続き、福島県磐梯町長、佐藤淳一氏のインタビューをお届けします。
昨年、総務省から「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」が発表され、いよいよ全国の地方自治体にDXの波が広がりつつありますが、同町ではそれよりも前の2019年からDXに取り組んできました。
その背景には、「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」の基本理念があり、町が持続的に発展していくための住民本位のDXを展開しています。
前回まででは、磐梯町のDXを牽引する「デジタル変革戦略室」の「アジャイル(ゴールに向かってトライ・アンド・エラー〈試行錯誤〉を繰り返しながら素早く改良していくこと)」な運営方針や各課との連携、民間の外部人材とイノベーションを起こしていくための座組み(メンバー構成)について伺いました。
今回からは、今年度に同町が取り組むデジタル通貨を用いた実証実験の詳細や、アジャイル計画に対する予算の立て方、素早くプロジェクトを進めるための職員間での情報共有など、同町のDXの裏側をさらに詳しく伺います。(聞き手=株式会社Public dots & Company)
高齢人口3割超の町でのデジタル通貨実証実験
PdC 前回、行政にアジャイル運営の価値観を根付かせるために、先鋭的な部署であるデジタル変革戦略室と、他の課が連携してプロジェクトに取り組むというお話がありました。
特に今年度はデジタル通貨を用いた「磐梯デジタルとくとく商品券(地域内の加盟店舗で使えるスマートフォンチャージ型のデジタル商品券。1部5000円から購入でき、町民1世帯10万円まで購入が可能)」の事業を行うとのことですが、デジタル通貨という町民にとっては新しいものに対する取り組みに挑戦する際、現場の職員の方たちが気にしたことは何でしたか?
佐藤町長 「デジタル通貨がセキュリティー的に大丈夫なものであるかどうか?」と、「磐梯町の中の店舗がそれを導入してくれるのか?」という2点です。これらも最初は職員の中に「できない」という既成概念がありますから、それを打破するところから始まります。
まずセキュリティー面では、専門家に意見を仰いで安全性を確認しました。では「実際にどのくらいの店舗が導入するのか?」ということについては、資料などを用いて説明していったところ、町中の店舗の約半数が導入に至りました。
このように、一つ一つクリアしていけば基本的には「できる」んだと気付いてもらうことが大事だと思います。こういった姿勢は民間企業では当たり前ですが、行政の世界ではまだ浸透していませんから、根付かせていきたいですね。
PdC 今回のデジタル通貨の社会実験では、具体的にどのようなことを検証できたらいいと思っていますか?
佐藤町長 まずはセキュリティーや運用面でのトラブルです。今回の「磐梯デジタルとくとく商品券」にはブロックチェーン(会津大学が開発に携わった世界最先端のブロックチェーン技術「ハイパーレジャーいろは」)を採用するため安全性はかなり高いですが、運用面やセキュリティー面でどのような懸案事項が出てくるかは実際やってみないと分かりません。ですから、それを確かめるのが一つです。
そして、やはり「店舗が導入するのか?」や、「町民の皆さんが実際に使ってくれるのか?」の検証が重要です。実は磐梯町には以前から紙の「とくとく商品券」はありますが、そのプレミアム率は20%です。今回のデジタル版の方はプレミアム率を25%にして、どのくらいの方が利用してくださるのか検証します。
PdC 「デジタル版商品券のプレミアム率は25%で、紙の方が20%なのは不平等ではないか?」という意見が起こり得る気がするのですが。
佐藤町長 紙の商品券の場合、デジタルに比べて業務が増えます。例えば、印刷コストもそうですし、配送コストや使用履歴のチェックなど、諸々の場面で手がかかります。それらの手間がデジタル版ではなくなりますから、その分5%アップさせていますし、町民の皆さんにもそのように説明しています。
プレミアム率が5%アップすると、1万円分の購入で実質1万2500円使えることになります。10万円だと実質12万5000円です。デジタル版の方がやはりお得です。
ですから、デジタル版のとくとく商品券は町民の皆さまから非常に注目を浴びています。(注 7月17日で予定数が完売)
PdC 「磐梯デジタルとくとく商品券」を町民の皆さんが使うには、スマートフォンが必要ですよね?ご年配の方にも積極的に使っていただけそうですか?
佐藤町長 それは、実際運用してみて初めて分かることですね。もしかしたら、ご年配の方は使い方に戸惑うかもしれません。しかし例えば、お子さんやお孫さんと一緒に買い物に行って使用するというパターンもあるのではないかと考えています。どんな形になってもいいので、まずは興味を持って使っていただければと思います。
アジャイルの向き、不向き
PdC これからのイノベーションは、磐梯町のように規模は小さいけれども、変革の意識の強い自治体から生まれていくのでしょうね。
佐藤町長 規模の小さい自治体の方が、いろいろとトライ・アンド・エラーがしやすいですよね。住民も顔見知りの方が多いですし、店舗の数も限られています。磐梯町は、町全体の事業者の数が60ほどですから、今回のようなデジタル通貨の実証実験でも理解を得るスピードは速いですね。
慣例上、どうしても職員の皆さんは失敗を恐れる傾向にありますが、最終的には首長が責任を取ると明言した上で、どんどん挑戦していただきたいです。
PdC ちなみに業務の中で、アジャイルの向き、不向きはあるのでしょうか?
佐藤町長 基本的に、どんな業務でもアジャイルで進められると思います。税金の納入や各種申請など、法律で定めがある事務手続きについては手順を変えることは難しいですが、手続きの方法自体は変えることができます。
もっと効率的に、かつ、住民の利便性や価値につながるような仕組みは考えればできます。その「誰のために」と「考える」ということを、常日頃から職員が行えるような文化をつくるのが大事です。
(第4回に続く)
【プロフィール】
佐藤 淳一(さとう・じゅんいち))
福島県磐梯町長
1961年9月生まれ。日本大学工学部卒業。磐梯リゾート開発(現在、星野リゾート アルツ磐梯などを運営)に入社後、星野リゾートの東京営業所長や磐梯リゾート開発の取締役総支配人を歴任。2015年に磐梯町議会議員。2019年6月から現職。