ー ファーストモデルでなければ、機会は取れないー 首長が自ら民間と組むということ 〜小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~

 

2026/9/9 ー ファーストモデルでなければ、機会は取れないー 首長が自ら民間と組むということ 〜小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~

2026/9/10 ー ファーストモデルでなければ、機会は取れないー 首長が自ら民間と組むということ ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~ 

 

はじめに

地方自治体がより良い住民サービスを提供するためには、行政組織と職員が健全かつ持続可能な状態を維持することが不可欠です。

本連載では、ウェルビーイングの自治体経営をテーマに、ストレスのない職場環境、ワーク・ライフ・バランス、そして職員一人ひとりが効率的に業務を進め、成果を実感しながら充実した働き方を実現する手法などを紹介します。

 

その土台となるのが、変化に対応し、地域の課題を新たな機会へと変えていく自治体経営です。

今回は、首長や幹部職員に向けて、首長自らが民間と向き合い、ファーストモデルを生み出すことの意義について紹介します。

 

「首長主導だから成功した」をどう読むか

官民共創によって大きな成果を挙げている自治体を見ると、首長の関与が強い事例が少なくありません。

トップが明確な方針を示し、自ら民間企業との対話の場に出て、前例のない取り組みに判断を下す。組織が比較的小さい自治体では、その意思が全庁に伝わるまでの距離も短く、トップの判断速度が、そのまま自治体の行動速度になります。

官民双方の現場に関わる中でも、意思決定権を持つ幹部が早期に関与した案件ほど、実証まで進みやすいと感じます。一方、トップが「担当に任せてある」と距離を置いた案件は、予算、責任、庁内調整の段階で止まりやすい。

本誌の首長インタビューでも、同じ構造を確認してきました。茨城県境町では、民間からの提案を橋本正裕町長が当日中に判断し、北海道音威子府村でも、遠藤貴幸村長が当日から数日で実施を決めています。

自治体の規模や条件は異なっても、共通するのは、最初の判断を担当課に預けず、首長自身が引き受けていることです。

 

問題は、この事実をどう読むかです。

多くの自治体職員は、先進自治体の事例を見て、こう考えます。

「あの自治体は首長が特別だからできた」

「うちの首長はあのようなタイプではない」

「小さな自治体だからトップダウンで動けるのだ」

そうして、成功事例を自分たちとは条件の異なる特殊な話として処理してしまう。

しかし、首長の関与が強い自治体ほど官民共創を前に進めやすいのであれば、それは「特殊な首長だから成功した」のではなく、トップが担うべき仕事を、トップが担ったから進んだとみるべきではないでしょうか。

 

官民共創は、単なる民間企業との交流ではありません。予算の使い方を変え、前例のない試行を認め、複数部局を動かし、失敗時の説明責任を引き受ける行為です。こうした判断を、担当課だけに委ねることはできません。

本稿が主に語り掛けたい相手は、現場の担当者ではありません。首長、副市長、部長など、組織の意思決定に責任を持つ人です。

 

首長は、自ら民間と組む席に着くべきである

官民連携というと、包括連携協定を結び、企業の代表者と首長が並んで写真を撮り、プレスリリースを出す光景を思い浮かべる方も多いでしょう。

もちろん、それ自体に意味がないわけではありません。相互の関係を公に確認し、庁内外にメッセージを発する効果はあります。しかし、それは官民共創の入り口にすぎません。

本当に問われるのは、その先で何を試し、何を生み出すかです。

前例のない取り組みに進んでよいのか。実証に必要な庁内調整を誰が担うのか。失敗した場合、誰が議会や住民に説明するのか。成果が出た場合、次の展開につなげられるのか。

これらは、担当課の一存では答えられません。

決裁権のない担当者同士がどれほど熱心に話しても、「持ち帰って検討します」が繰り返されるだけでは、案件は具体化しません。逆に、意思決定権を持つトップが席に着き、「この課題については実証する意思がある」「庁内調整は自分が引き受ける」「失敗しても検証結果として扱う」と明言すれば、民間も庁内も次の行動に移れます。

トップ同士が向き合う方が早いのは、精神論ではありません。意思決定の構造が違うからです。

もちろん、首長がすべての打ち合わせに出席する必要はありません。実務は職員が担うべきです。しかし、初期段階で、その取り組みを自治体として進めるかを判断し、組織としての約束を示すことは、トップマネジメントの仕事です。

 

なぜ、ファーストモデルなのか

では、首長が自ら民間と組むとして、何を狙うべきでしょうか。

私は、予算も人材も限られる自治体ほど、「ファーストモデル」を狙うべきだと考えています。

ここでいうファーストモデルとは、単に「日本初」や「地域初」という看板を掲げることではありません。新しい技術や仕組みを、地域固有の課題に初めて組み合わせ、他地域にも展開可能なモデルとしてつくることです。

 

重要なのは、「初めて」という言葉そのものではなく、第一号であることによって、後発では得にくい価値が生まれる点です。

新しい市場や技術が立ち上がる局面では、最初に実績をつくった企業や地域に、情報、人材、取材、問い合わせ、次の実証機会が集中しやすくなります。最初の取り組みが基準となり、その後に続く取り組みは、それとの比較で語られるようになります。

後発でも、先行者より優れたものをつくることはできます。先行者が必ず勝つわけでもありません。ただし、第一号でなければ得にくいものがあります。最初の実証で得られるデータや知見、先行事例としての認知、そして全国から人や情報を集める求心力です。

 

一例を挙げると、私が創業期から関わった、音声合成技術とキャラクターを組み合わせた事業でも、同じ構造を見てきました。

市場にはその後、数百もの類似キャラクターが登場しましたが、初期に定着したモデルは、現在も圧倒的な知名度と案件数を維持しています。後発に優れたものがないのではありません。市場が立ち上がる時期に認知と利用を先に積み上げたことが、その後の優位につながったのです。

 

では自治体はどうか。自治体が商品やサービスの市場を取るわけではありません。市場を取る主体は、基本的には民間企業です。

自治体が得るのは、先行者としての注目や評価、知見、発信力、そして次の連携を呼び込む立場です。

例えば神奈川県横須賀市は、第一号になる意義を理解した上で、全国の自治体に先駆けて生成AI(人工知能)の全庁導入に踏み切りました。

その取り組みは大きく注目され、市は、その動きを評価するAI専門家のX(旧ツイッター)への投稿を捉えて自ら接触し、ノウハウ提供を受ける関係へと発展させました。

第一号を意図的に取りにいったからこそ、外部の反応を次の人材や連携につなげる機会が生まれたのです。

ファーストモデルを狙う意味は、単なる広報効果ではありません。地域課題を解決しながら、外部の資源を引き寄せる位置を取ることにあります。

 

(第2回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年8月3日号

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