デザインって、色や形という狭い意味のデザインもありますが、コミュニケーションデザインという、広い意味での「デザイン」にもこだわられていますよね?
はい、まさにその通りです。それが3つ目のコミュニケーションの全体設計です。どのツールをどう使って、市民とコミュニケーションを図るか。
<3、コミュニケーション設計>
チラシについては、デザイナーさんに作ってもらっているもの(ポスティング用)と、自分でパワーポイントで作っているもの(リアルタイムの駅前配布用)とがあります。ネットメディアについては、WEBサイト・ブログ・Facebook・ツイッター・最近LINEも始めました。各ツールの特性を踏まえ、市民の関心度合いによって、親和性が高いツールを選んで情報発信しています。
ブログは、基本的に興味の高い人が中心に読んでいるので、その人に向けたストック情報としています。駅前で配るチラシは、自分で受け取るわけだから、少なからず関心が高い層。一方で、ポスティングは興味の有無に関係なく届くので、関心が低い層にも届きます。いつも読まない人に読んでもらえるきっかけがあるというのが肝。だからこそ、ここはこだわってデザイナーさんに作ってもらって、関心が低い人にもアクセスできるポイントをしっかりと設定したいと考えています。このように、ツールの使い分けを頭に入れながら運用しています。
また、考えられる導線に関して(上図)。だいたいインターネット検索から、WEBサイトやブログに入ってくる人が多いですが、駅前・ポスティングチラシから入ってくる場合もあり、ブログやSNSを見てもらって、メールで問い合わせをもらったり、直接事務所や市政報告会に来てもらったり。できるだけリアルな個別の接点に結び付けていくことを最初から考えていました。
上の図は、縦軸が即時性、横軸が一方向か双方向か。だいたいネットメディアは、即時性と双方向性が高いですよね。また、リアルな市政報告会も双方向。一方、チラシやブログは一方的に伝えるものです。SNSで気になることをブログでチェックしてもらったり、チラシを見た人が興味を持って市政報告会に参加したり、この繰り返しによって、市民の知識が無意識のうちに蓄積されていきます。これが、小金井市の現状把握につながるわけです。
実際に、チラシを見た人がふらっと事務所に立ち寄って意見を言われたという事例はあったのでしょうか?
ありました!ある日、30代くらいの子育て中のお母さんがふらっと事務所に来られて、待機児童問題について相談を受けました。その方はその後、陳情書を出されて、それが採択されたんです。そういうことが何件かありましたね。ちなみに、そのお母さんは、旦那さんが駅前で僕の政策チラシを受け取られて、それを見て事務所に来られたそうです。描いていた導線通りに、市民とコミュニケーションをとることができて、とても嬉しかったですね。
私がここまで緻密なコミュニケーションデザインを構築しているのは、自分の選挙のためというよりは、より多くの市民に、小金井市の現状を分かってほしいからです。そして市政に対して意見を上げてほしいからです。だからこそ、裾野を広げていく活動を地道にやっていきたいと思っています。
細やかな戦略のウラにあった、小金井への想い
白井さんのこれまでの知見や努力が、市民とのコミュニケーション戦略に生きているのだなと感じました。最後に、小金井市民であり、夫であり、お父さんでもある白井さんとして、小金井市に対しての想いを聴かせてください。
僕は大阪生まれ、大阪育ちです。社会人になってからは、本当に仕事しかしていませんでした。激務でしたので、週2~3回徹夜して、ダンボールで寝るみたいな。あの時、社会や地域との接点なんて、考えたこともなかったし、想像もしていなかったです。
13年前の東京転勤で、たまたま小金井市に住みました。子どもが生まれるまでの3年間は、近所に友だちや知り合いが1人もいなかったんですね。でも、子育てするなら地域デビューをしないといけないなと思い、市報で偶然見つけた「市民協働のあり方等検討委員会」の市民公募に応募しました。委員会の活動ではいろいろな方を紹介していただき、どんどん知人が増えていきました。そういう風に展開していくのは意外でした。地元ではない場所で、地域に出ていったら、まさかの大歓迎をされて、僕自身がすごく楽しかったんですね。こんな僕を受け入れてくれた、この街と地域の方々に、心から感謝しています。「地域という、自分にとっての“サードプレイス”があると、あ、すごい人生が豊かになるんだ」。そこに気づかせてもらいました。小金井市は緑が多くて好きというのもありますが、根本はそこですね。
だから街や行政に課題を見つけた時、「良い街なんだから、もっとまともにしようよ」という思いが根底にある。時々、地元・大阪に帰ると、「お前地元で議員やってくれよ」なんて言われますけどね(笑)「僕は政治家になりたかったわけではなくて、今住んでいる街が好きだからやっているんだよ」と説明しています。
偶然なのか必然なのか、この街に住んで、地域の人に触れて、この街が大好きになって。そうじゃなければ、すごく淋しい人生を歩んでいたかもしれない。地域のおもしろさを知らなかったら、人生もったいなかったと思います。社会や地域との関わりを持ち、人生を豊かにしてもらったことに、本当に感謝しています。
「市長になりたいならまず都議になったら?」と言われることがあるのですが、それは違うんですよね。僕はね。小金井のためだけに働きたいと思っています。
【インタビュアーによる編集後記】
これまで何人もの地方議員さんたちにインタビューを行ってきました。皆さん力を入れている政策分野も違うし、戦略やアプローチもそれぞれ違う。どこかの地方議会で不祥事などがあると「これだから地方議員は」とひとまとめにされて批判されがちですが、地方議員にもいろんな人が居るのです。
ここ十数年の動きを見ていると、地方議員にも多様性が見られるようになってきました。地元の名士や組織の代弁者に加え、地域の課題解決のために立ち上がる個人が増えてきました。白井さんもそのひとり。小金井市に居を構え、子どもが生まれ、地域に対する愛着と想いが募り、地方議員として精力的に活動するに至ったわけです。地域にこうした「想い軸で活動する」議員さんが増えていけば、地域はもっと面白くなることでしょう。
【プロフィール】
小金井市議会議員
白井 亨(しらい・とおる)
1975年生まれ、大阪府枚方市出身。関西大学社会学部卒。
コミュニケーション・プランニングや商品開発・企画・マーケティングを生業とする(1999年〜2012年/2016年会社員)。
2013年3月、政党に属さずどの組織・団体からも支援を受けず、素人市民のみでチームを作り、市議会議員選挙に臨み当選。2013年、2015年には、マニフェスト大賞 優秀ネット選挙・コミュニケーション戦略賞を受賞。2015年12月の小金井市長選挙に完全無所属で出馬するも、2,408票差で惜敗。2017年3月市議選でトップ当選、再び市政の最前線で走り続けている(現在2期目)。2020年よりマニフェスト大賞実行委員長。