組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(4)~

堀江和博・滋賀県日野町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

 

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2021/11/12   組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(4)~

オンラインコミュニケーションと官民共創

PdC 堀江町長の感覚で構わないのですが、自治体が抱える業務のうち、何割くらいが官民共創で行えそうだと思いますか?

堀江町長 本当に感覚的ですけれども、業務の民間委託や、部門を民間に移譲することも含めると、3割くらいはできるのではないかと思います。行政でなくてもいいという仕事は、実はありますからね。

 

PdC それは特定の領域の業務ですか? それとも、全体的にですか?

堀江町長 税務関係の業務はさすがに行政が担わないといけませんが、それ以外ですと、官民共創ができる領域はいろいろあると思います。例えば企画的なこともそうですし、産業、農業、福祉関係の業務もできますね。実際に官民共創するかしないかはまた別の話として、行政と民間が接点をつくれる領域はこのくらいはあるのではないかと思います。

 

PdC 確かに、官民共創ができるかどうかと、した方がいいかどうかの話は別ですね。

堀江町長 実現可能性については、今は地方自治体にとって有利な時代になったと思います。いろいろなサービスがクラウド化されて、場所を選ばないコミュニケーションができるようになりました。これはコロナ禍も契機になったと思いますが、オンライン会議が市民権を得たことから、都市部の人材が地方のプロジェクトに参画する流れが今後も進んでいくと思います。

 

PdC 「オンライン会議が当たり前になったことは地方自治体にとって有利だ」とおっしゃいましたが、具体的にはどんなところで感じますか?

堀江町長 今までであれば、最先端の情報を取りに行くのに、東京や大阪に行かなければなりませんでした。それがオンライン会議が当たり前になったことで、インターネットさえつながっていれば、どこにいてもセミナーやミーティングに参加ができ、情報を得ることができます。

今回、日野町が官民共創で行った新型コロナワクチン接種のウェブ予約システムの開発についても、東京の民間企業の方とはほとんどZoomやSlackでやりとりしました。実際にお会いして打ち合わせしたのは2回ほどです。この体験から、地理的に距離があっても、これらのツールを使ってベースの人間関係を構築することができると分かりました。

このコミュニケーションが市民権を得たことは、地方自治体にとってとても有利です。

 

PdC 今後、オンラインコミュニケーションの利点を生かせる自治体と、そうでない自治体では差がついてくるかもしれないですね。

堀江町長 この機会に何かにチャレンジすること、つまりリスクオフを求められている社会の中であえてリスクを取れることは、官民問わず差が出るポイントにはなってくると思います。民間企業を見ていても、このコロナ禍に打って出るところはありますから。

心理的安全性を組織内につくることのメリット

PdC ちなみに、堀江町長は普段の情報収集をどういう形で行っているのですか?

堀江町長 インターネットからが多いですね。インターネット交流サイト(SNS)もしているので、そこから情報を得ることもあります。後はやはり人との出会いです。こういう姿勢でいると、同じ波長の方が集まって来てくださるので、その方たちと互いに情報交換することもあります。

 

PdC ある意味、出会うべき人と出会っていくという感じですね。今までのお話を伺う限り、ひょっとして職員の方からすると、堀江町長のおっしゃっていることが先を行き過ぎていて分からないこともあるのではないかと思ったのですが、その点はいかがですか?

堀江町長 そういったこともあるかもしれませんが、私は職員の皆さんに、ぜひ仕事を楽しんでいただきたいと思っています。

もちろん仕事なので、時には辛いことや腹立たしいこともあるでしょう。それでも、自分たちの活動が新聞に掲載されたり、住民の皆さんに評価していただいたりすると、純粋にうれしいですよね。

やはり仕事というのは、自ら問題意識を持って取り組んだことや、思い描いたことを実行できているときに一番の喜びがあります。ですから、職員一人ひとりが「これが大事だ」と思うことを素直に言えて、実行できる風土の職場にしていきたいと思っています。

心理的安全性を組織内につくることは常に意識していますね。

 

PdC 公務員の方にとって、どのような状態であれば心理的安全性が保たれるのでしょうか?

堀江町長 これは行政に限らず、どこの組織もそうだと思いますが、思っていることや気付いていることを素直に言えるかどうかだと思います。

 

PdC 反対に、思っていることを言えない状態をイメージしてみたのですが、例えば、言っても話が通らないとか、言ったら怒られる、ということでしょうか?そういう組織風土は心理的安全性が保たれていないということですね?

堀江町長 そうですね。まず、言ったら怒られるというのはパワハラですから、当然よくないですよね。言っても通らないのは組織文化の問題だと思います。

私は、心理的安全性が保たれた組織には二つのメリットがあると思っています。

一つは、仕事のパフォーマンスが上がることです。その場に集っている人は、何らかのご縁で仕事を一緒にしています。たくさんある職種の中から、それぞれが自分で選択し、その場に集っているわけですから、お互い楽しく仕事ができた方がいいに決まっています。ですから、皆が素直に意見を言い合えて、互いに受け止める文化が醸成できれば、自然と個々のパフォーマンスは上がります。

二つ目は、リスク管理におけるメリットです。上司に思っていることを言えない組織というのは、例えば仕事でミスをしたときに報告しない傾向があります。言ったら怒られるからですね。そうやって問題の放置を繰り返すと、完全に顕在化してから発覚し、大炎上することが往々にしてあります。思っていることを言えない組織風土というのは、そういうリスクをはらんでいるということです。

半面、ミスも含めて「報連相」が滞りなくできる組織であれば、何か問題が起きた際にも小さな芽の状態で摘むことができます。

 

PdC 日本は良くも悪くも同調圧力の強い社会ですから、例えば「これくらいのことなら言わなくてもいいか」と我慢するシーンもたくさんあります。それが積み重なったときに炎上してしまうのだろうと思いました。ちなみに堀江町長は、組織の中での意見の言いやすさを決める要因は何だと思っていますか?

堀江町長 組織が大きくなればなるほど、もともとの組織風土の影響も大きくなりますよね。

それから、やはり上司の姿勢だと思います。部下は、上司のメンタリティーや器以上のことはできません。それは組織全体の秩序が保たれているとも言えるのですが、上司が間違った方向性を示した場合は、全体の方向性も狂ってしまいます。それを防ぐために私は、現場の職員の意見を広げることを最優先にしつつも、自分自身のメンタリティーや器も大きくし続けられるよう努力しています。

管理職の皆さんは私よりも年上ですから、意見は言いやすいとは思います。私も「言いにくいことも言ってほしい」と常々伝えていますし、それがミスや問題の報告だとしても、頭ごなしに非難することは絶対にありません。

 

PdC 日野町の職員の方が、風通しのいい職場で働いている様子がイメージできました。最後に、全国の公務員の方に向けて、堀江町長からメッセージを頂けますか?

堀江町長 自らアクションを起こしていきましょう、ということですね。

行政の方は、指示された業務をこなすことを非常に得意としています。しかしこれからの時代は、問題意識を持って自ら動くことが地域の課題解決につながります。

アクションを起こす場所は役所の中だけに制限する必要はありません。例えば、ボランティアで子育て支援の活動を行うとか、仲間同士で勉強会を開くなど、多くの可能性があります。

すべての公務員の方がそうなることは難しいかもしれませんが、能動的な活動を行い、その活動に対して素直に喜びを感じる方が一定数でもいれば、自治体は変わっていくと思います。

 

【編集後記】
堀江町長のインタビューからは、地方自治体が今後持つべき姿勢のヒントが伝わってきました。

明確な答えが存在せず、前例が通用しない時代だからこそ、内から外へ、受動的から能動的へ。あらゆる情報にアンテナを立て、小さな改革やチャレンジを積み重ねた軌跡は、やがて住民全体が思い描く理想の地域へとつながっていくでしょう。

人口約2万人規模の自治体の事例だからこそ、自分ごととして捉えられる読者の方も多いのではないでしょうか?日野町のように「挑戦することが前提」の自治体が今後も増えていくことを期待します。

 


【プロフィール】

堀江 和博(ほりえ・かずひろ)
滋賀県日野町長

1984年生まれ。滋賀県出身。立命館大卒業、京都大公共政策大学院修了。民間企業、町議を経て2020年7月に第6代日野町長に就任(県内最年少首長)。住民、企業、NPOなどとの共創関係を築き、新しい発想で課題にアプローチしている。

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