新型コロナ禍のひとり親家庭への支援
自治体は実態を把握し、支援の拡充を
千葉市議会議員
田畑 直子
2020/8/12 新型コロナ禍のひとり親家庭への支援(1)
2020/8/14 新型コロナ禍のひとり親家庭への支援(2)
2020/8/17 新型コロナ禍のひとり親家庭への支援(3)
2020/8/19 新型コロナ禍のひとり親家庭への支援(4)
2020/8/21 新型コロナ禍のひとり親家庭への支援(5)
さらなるひとり親家庭への支援を
離婚成立前の家庭への支援
今回の調査や、市民から受ける相談により、「配偶者が離婚に応じない」、または「長期に別居しているが、児童手当は世帯主に給付され、ひとり親家庭の支援も受けられない」といった、離婚前の問題が増加傾向だと感じている。
自治体では、離婚成立前の家庭への支援として、弁護士相談等を実施しているが、十分な周知や活用には至っていない。行政は、市民生活に影響が出る前の家庭内の問題に関与することはなかったが、離婚できず、支援を受けられない状態が続く家庭にも、支援が必要であることを認識し、さらなる事業展開を望む。
父子家庭の実態把握と支援充実
父子家庭は、母子世帯よりも経済的に安定している傾向があり、行政支援を受けていない世帯も多いため、実態が十分に把握されていない。父子世帯は、子育てや家事に不慣れである、仕事と家庭との両立が困難である、地域住民や学校の保護者、他の父子家庭との交流が乏しい、悩みを共有する場がない他、母子家庭と比べ死別も多いため、家族の死の経験を抱えるなど、特有の課題がある。しかし、ほとんどの自治体では父子世帯に特化した支援を実施していないため、対応が必要と考える。
ダブルケアへの対応
今後、深刻になると予想するのは、子育てと介護を同時に一人が担うダブルケアだ。ひとり親が親の介護を担うことは、負担が大きく、仕事や子育てに影響が出ることが懸念される。介護を理由に勤務時間の短縮や離職をすれば、さらに経済的な困窮に陥ることになる。現状では、具体的な支援を実施する自治体は少ないが、対応策を講じることは急務と考える。
世帯の支援だけではなく「個」への支援を
行政の支援は、世帯全体や世帯主への支援が中心だが、子ども・保護者、それぞれ「個」に向け、支援する必要がある。今回の調査でも明らかになったが、保護者の経済状況や精神状態は、子どもの生活や心身に大きく影響するのにもかかわらず、子どもへの支援は十分ではない。
現状では、子どもへの直接的な支援は、生活困窮者支援事業等の学習支援などであるが、親や友達に言えない悩みを抱えることも少なくないため、心の支援も必要だ。保護者にも、悩みを打ち明けられる相談場所や、当事者同士の交流等が必要だが、こちらも支援は十分ではない。国では子どもの居場所の提供を事業化していることから、自治体の積極的な導入を望む。
民間や地域団体との連携強化
行政の支援は、ひとり親家庭にとって、なじみがないため敷居が高く、お世話になる立場から精神的な負担となり、利用しにくいのが実情だ。対して、民間や地域団体では、子どもや保護者のコミュニティーや、心のケアや当事者同士のピアサポート等の相談支援、子ども食堂やフードバンクなど食の支援など、行政では行き届かない支援をしている。これら団体はひとり親家庭に寄り添う支援を行い、行政の把握していない家庭の課題を察知できることから、行政の支援が必要な場合に、情報提供をしてもらうなど、連携体制を構築することが必要と考える。さらに、情報共有や連携を強化していく上で、団体の継続的・安定的な活動への支援も必要と考える。
市町村での就労支援の強化
離婚数は年々増加傾向であり、今後もひとり親家庭数の大幅な減少は見込めないため、自治体の負担増加が予想される。そのため、保護者の自立支援を強化し、社会資源として活用していくことが必要と考える。就労に向けた支援策の実績が上がらない理由として、就労は労働局の管轄のため自治体の関与が薄いことや、雇用とニーズのミスマッチ、就職活動のフォローアップ体制が十分ではないことなどが挙げられることから、雇用開拓や就労支援を行う民間団体や、行政の経済部局と連携するなど、より地域や求職者の環境やニーズに即した取り組みを展開する必要がある。ひとり親の精神的な安定のためにも、自立は必要なことから、地元雇用・起業の人材として、活用するよう、就労支援の強化を望む。
今後の活動と展望
以上が今までの取り組みと見解である。新型コロナの影響は未だ収まる様子がないことから、今後は、緊急事態宣言解除後、学校や保育所が再開し、休業要請などの制限が緩和された状況の中で、保護者の就労状況や家族の生活、学習や心身面にどう変化があったか、影響がどのくらい残っているのか、検証のため、インターネットアンケートや座談会を実施する予定だ。その調査結果を基に、自治体等へ中・長期の支援を求めていく。さらに、新型コロナ禍の影響だけではなく、根本的なひとり親家庭の課題解決に向け、支援と活動を継続していく。
また、活動を通じて、当事者議員が関わる意義を確信することができた。座談会では、当事者同士のため、心の垣根がなく、子どもをひとり親にしてしまったという自責の念、周りには見せられない弱さや傷を理解し合える安心感があり、非難されない、偏見のない安全な場を提供できたように思う。
今後は、座談会の継続的な開催のみならず、ひとり親家庭に一番必要とされる、地域社会でのコミュニティーづくりを担わなければならないと考えている。子育て家庭で一番避けなければならないのは孤立だ。孤立しやすいひとり親家庭にとって、存在を認められ、心に寄り添うことのできる地域での居場所づくりに努めていきたい。
さらに、支援が十分ではなかった子どもへの心のケア等の支援に、母親の目線で取り組む所存だ。ひとり親家庭で育った議員や一般の経験者などにも協力を求めて、実体験を基に進めていきたい。
希望を持てる社会を目指して
現代では、個人や各家庭の生活力・子育て力が弱体化している傾向がある。そのため、子育てや介護など、家庭内の負担や義務を社会で共有することが必要になっている。しかし、ひとり親家庭は、自治体や社会からの支援によって救うことができ、自立できる可能性を十分に持っている。そのため、自治体の負担として捉えるのではなく、未成年を育てていることから、次世代を担う人材の育成や、自治体の未来につながる支援として、意識の転換を図ってほしい。
さらに社会に向けても、理解を促す必要がある。声を上げられずに、一人で抱え、支援を求められないひとり親家庭がほとんどだ。私たちが代弁者にならなければならない。その責任と使命があると感じている。私たちが目指すのは、ひとり親家庭が多様な家族形態の一つとして理解・認知され、どの家庭の保護者も子どもも、経済的な理由や家庭の環境に影響されず、未来を選択でき、幸せを実感し、胸を張れる社会だ。それを目指し、活動していきたい。
(おわり)
プロフィール
田畑 直子(たばた・なおこ)
千葉県千葉市議会議員
1976年生まれ。1児の母。東京女子大文理学部日本文学科中退。シングルマザーとなり、財団法人等の非常勤職員として勤務、学校のPTA役員や青少年育成活動に従事。政党の公募により公認され、2011年に初当選。現在3期。子育てをはじめ、多様な女性の生き方への支援充実を掲げる。全国若手市議会議員の会役員、国民民主党全国青年委員会役員、若手女性地方議員ネットワークWOMAN SHIFT運営部。ひとり親家庭支援のための地方議員ネットワーク発起人。