パブリックで輝くひと【第5回】「恩返し」を原動力に、ワインで地域と世界をつなぐ

<パブリックで輝くひと> 蓮見よしあきさん
元長野県東御市議会議員
(株)はすみふぁーむ代表取締役

<聞き手>
WOMANSHIFT 本目さよ(台東区議会議員)
たぞえ麻友(目黒区議会議員)
ママインターン

(インタビュー実施日:2021年10月17日)

「パブリックで輝くひと~多様なキャリアが社会を動かす~」第5回のインタビューは、個人として全国で初めてワイン特区制度を利用して長野県東御(とうみ)市にワイナリーを立ち上げ、同時期に東御市議会議員を2期8年務めた、蓮見よしあきさんです。ワイナリーを経営しながら議員活動に取り組むだけでも多忙を極めそうなものですが、さらに東京の大学院へ通ったり、語学学習に勤しんだり、蓮見さんの1日が24時間だとは思えないくらいの活動量です。そのパワーの源はどこにあるのか、どんな思いでワイン造りの道を歩まれてきたのか、伺っていきたいと思います

メジャーリーガーと飲んだワインに魅了され、ワイン造りの道へ

たぞえ ワイン造りの道を歩まれることになったのは、何がきっかけだったのですか?

蓮見さん 中学生の時に渡米し、高校と大学はアメリカの学校を卒業しました。大学での専攻は「RTF(ラジオ・テレビ・映画学)」だったため、ショービジネスの仕事に興味があったんですね。当時は、ショービジネスの仕事というと「ハリウッド関係かな?」とイメージしていたのですが、たまたま知人に誘われて、日本人メジャーリーガーのパイオニア・野茂投手の試合を観戦しました。「こんなに面白いビジネスがあるじゃないか」と思ったんですね。そんなきっかけもあって、大学で学んだPR関係の知識を活かして、メジャーリーグの球団職員として働くことになったんです。

試合後、メジャーリーガーたちと夕食を食べるのですが、その際においしいカリフォルニアワインを飲ませてもらったんですね。まだ20代前半、ワインのいろはは分かりませんでしたが、「うまいな」ということだけは分かりました。その時にワイン造りというビジネスに興味をもったんです。「自分が理想とするワインを造ってみたい」という思いがふつふつと湧き、ワインビジネスに関する知識を得るため、まずはワイナリーに転職しました。

たぞえ なるほど、そんなきっかけがあったんですね!その後、独立されてワイナリーを起業されることになりますが、なぜ日本の長野県東御市を選ばれたのですか?

蓮見さん 日本でワイン醸造に向いている土地を探し求めていたのですが、長野県東御市は、地理的・気候的条件がワインの名産地として有名なフランス・ブルゴーニュ地方に近かったんです。近くに川が流れ、斜面が多く、十分な日照量が確保できる東御市は、自分が目指すワイン造りに最も適していると思い、移住を決断しました。2005年のことです。

ブルゴーニュ地方に似ていると言われる東御市の風景(11月のはすみふぁーむ)

ブルゴーニュ地方に似ていると言われる東御市の風景(11月のはすみふぁーむ)

 

蓮見さん 移住先として選んだ東御市は、やはり高齢化が進んでいて、農家の若い後継ぎがどんどん辞めている状態でした。そうすると、農地が荒廃化し、景観も悪くなり、地域の基幹ビジネスである農業が廃れていってしまいます。そういう状況もありましたので、私のような若い移住者・新規就農者は、地域の方々にとても温かく受け入れていただきました。

農業を始めると言っても、もちろん野菜を作るというチョイスもあるのですが、他の農作物と比べてワイン用のぶどうは、人数が少なくても広い面積の畑で栽培することが可能です。そういう意味でワイン造りは荒廃地対策に良いんです。また、ワイン畑がある景観って、本当に素晴らしいと思っています。ワイン用のぶどう畑を造ること自体が、地域の財産になるのではないでしょうか。ワイン畑の景観が素晴らしければ、世界中から人が集まってきます。自分たちでぶどうを作る(一次産業)だけでなく、醸造して(二次産業)、全国そして全世界へ販売していく(三次産業)、六次産業化の基点として、ワインと東御市をPRしながら地域活性化ができたらと思いました。

たぞえ ワイン造りというのは、ぶどうの苗木を植えてから、ワインができるまで5年かかると聞きました。移住後、ワインが完成するまでも大変だったのではないでしょうか?

蓮見さん そうですね。ぶどうの苗木を植えて、収穫できるようになるまで最低3年、フル稼働まで4年かかります。そこからワインを造るのに最低1年かかりますから、合わせて5年ですね。裏を返せば、ワイナリーを起業して5年間無収入なわけです。テレビに登場するソムリエやワイン好きの芸能人の影響なのか、ワインって農業の中でもおしゃれなイメージがあるかもしれませんが、実際はかなりキツイ仕事です。ただ、時間的、経営的には大変なものの、私にとってワイナリー起業は「究極の男のロマン」「長年みるに値する夢」でしたね。

信州で作った「甲州」の収穫作業

信州で作った「甲州」の収穫作業

 

市議会議員を志した理由は、東御市の方々への「恩返し」

たぞえ ワイン造りをされながら、2008年からは東御市議会議員になられたわけですが、なぜワイン造りと議員活動を両方やろうと思われたのですか?

蓮見さん ワインと政治、両輪から地域を元気にしたいなと思ったんです。私は東京都世田谷区に生まれ、愛知県で中学まで育ち、その後渡米していますので、長野県とは縁もゆかりもありませんでした。移住して4年目に出馬して、いきなりトップ当選しましたから、かなり注目を浴びてプレッシャーは感じました。地方では、近隣住民は全員顔見知りですから。8年間、農業荒廃地対策に効果のあるIターン受け入れ促進などの農業政策、地域活性化や財政健全化などに取り組みました。8年間にわたり情熱を保っていたので、燃え尽きたという感じです(笑)。

議員時代のプロフィール写真

議員時代のプロフィール写真

たぞえ 一般質問の議事録を検索させていただいたのですが、やはり農業と観光に熱心に取り組まれていらっしゃったようにお見受けしました。特に「ワイン特区」(酒税法の定める正規の最低生産量6000リットルの1/3の規模で免許が取れる特別許可区域)については、まさにワインと政治が結びついている部分ですよね。

蓮見さん そうですね。2008年、東御市が長野県で最初にワイン特区に認定されて、周辺自治体も同様に手を挙げ始めたので、「じゃあ本気でやろう!」ということで、千曲川ワインバレー東地区(広域ワイン地区:上田市・小諸市・千曲市・東御市・立科町・青木村・長和町・坂城町)という形で、広域で認定を受けたんです。もともと東御市のワイン特区に関しては、ワイン特区に認定されていたから私が東御市に移住したわけではなく、私が移住してから仲間と市長のもとへ陳情に行って、特区を取っていただいたという感じです。私が選挙に出馬する直前のことですね。

たぞえ そうだったんですね!さすがの行動力です。ワイン特区もあって、若い方の移住も増えましたか?

蓮見さん そうですね。ワインはイメージがおしゃれなこともあって、比較的若い方が入ってきやすい農業だと思います。ワインをきっかけに若い方に移住してもらって、担い手がいないような畑を耕してもらい、一緒に頑張っていければいいなと思っています。ただ、うまくいかず2・3年で諦めてしまう方もいるので、そこは5年・10年定住してもらえるよう、行政とも協力して、地域活性化やワイン業界の盛り上げを図っていきたいですね。

たぞえ 一般質問の議事録を読んでいて、「国内外からの視察がある時に、東御市での宿泊や飲食をお願いしてみては」と提案されていて面白いと思いました。

蓮見さん 視察を受けるのも、職員にとっては時間も手間もかかる業務なんですよね。それなら視察をビジネスとして考えて、年間何十組も来るわけですから、東御市の宿に泊ってもらい、地元の飲食店で食事してもらうことを促進するべきだと考えました。私が以前ある自治体へ視察に行った時にも、市内の飲食店リストをもらって、強制ではないけれど、地元での飲食をお願いされたことがあり、とても良い発想だと思ったんですね。視察をただの視察で終わらせないで、一つ一つの訪問や飲食等を大切にし、地域活性化に結びつけるべきだと思っています。

たぞえ 賛成です。ビジネスマンだったら当然盛り込んでいくところを、自治体ってなかなか活かせないことがあるなと感じています。

本目 蓮見さんのお話を伺っていると、すごい熱量を感じるのですが、その情熱の源はどこにあるのですか?

蓮見さん 移住以来、地域の方々に本当にお世話になり、とても大事にしていただいたので、「地域の方々に恩返ししたい」という気持ちですね。恩返しの方法の一つが、議員活動でした。もう一つが、しっかり地域に根差した農業をやっていくことです。議員活動と農業で地域を元気にしていきたい、東御市の皆さんに恩返しがしたい、そんな想いが原動力になっています。

樽に入っているワインを定期的にチェック

樽に入っているワインを定期的にチェック

本目 「恩返し」素敵な言葉ですね。2期8年議員を経験されて、今の仕事に議員経験が役立っていることはありますか?

蓮見さん 県議会議員や国会議員の方々含め、普通に農業をやっていたら会えない人と会うことができ、たくさんのご縁をいただきました。そういう方々といまだにコンタクトが取れているのが有難いですし、行政の中枢部に入ることによって、市役所や議会がどう回っているかも分かり、まちづくりの根本を知ることができました。これからの自分のキャリアにとって財産ですね。

本目 同じように移住・就農された方に、地方議員っておすすめしますか?

蓮見さん 全員におすすめはしませんが、志があって、まずは現地の方と交流して問題点が出てきて、それを自分で変えたいなと思った人は、議員として活動することも選択肢の一つかなとは思います。

本目 そうですよね。移住者を受け入れようと思ったら、移住者の声も反映させないと、みんなが暮らしやすい地域にならないですよね。

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