自治体オープンデータの現状と可能性(1)~オープンデータは現代の図書館となるか?~

横須賀市議会議員

株式会社Public dots & Company調査研究員・小林伸行

誰が本など読むのか?

中世欧州で王立図書館ではない一般向けの公共図書館が登場したとき、「誰が本など読むのか?」と訝しむ声が少なくなかった。そんなエピソードを聞いたことがあります。当時、文字が読めるのは貴族や僧侶など支配階級が中心で、平民の多くは非識字者だったでしょうから無理もない話です。

しかし、時代が流れ、現代では図書館の必要性を疑う者はいません。日本では現在、約3300もの公共図書館があり、45000万冊に迫る蔵書を抱え、毎年7億冊前後を個人貸し出ししています(日本図書館協会2018年度調査より)。

また、知識・情報・技術こそ権力の源泉です。ジャレド・ダイアモンドが世界的ベストセラー「銃・病原菌・鉄」で描いたように、ユーラシア大陸のスペインが南米大陸のインカ帝国を滅ぼすことができた背景には、圧倒的な技術蓄積の差がありました。図書館を持っていた文明と、文字すら持たなかった文明の差とも言い換えられるかもしれません。そして、今や絶対君主ではなく国民が主権者となりました。近代社会において、国民の誰もが利用できる図書館は無くてはならない標準装備の施設だと言えるでしょう。

誰がオープンデータなど使うのか?

さて、オープンデータです。

かつて筆者が、市議会議員として神奈川県横須賀市の担当者に市が保有する公共データのオープンデータ化を提案したとき、まさに言われたことが「誰がオープンデータなど使うのか?」でした。

「市職員が時間を使ってデータを用意しホームページ(HP)にアップしたところで、実際に使う人が誰かいるのでしょうか? 利用されるかも分からず、利用する目的も分からないことに、市として人件費の高い職員を使ってコストを掛けるべきか大いに疑問です。まして、東京・横浜のような大都市ならばマーケットが大きいのでオープンデータを利用してサービスを提供する事業者もいるかもしれませんが、本市のような中途半端なまちにサービスを提供してくれる事業者がいるとは思えません。お言葉ですが、時期尚早かと思います」と言うのです。地方自治法第2条で、市役所は「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と定められており、それに基づいたと思しき反論に二の句が継げませんでした。

仕方がないので、その後、筆者は勝手にオープンデータ化を進めます。市議会の資料照会制度を使って市が持つさまざまな資料を取り寄せ、パソコンで作成されたにもかかわらず、わざわざ紙に印刷して提供された資料から表の数字を拾って、学生インターンと一緒に一つ一つ手入力し直し、施設情報にはグーグルマップから緯度・経度を取得して貼付し、自らのHPにアップして市民に提供したのです。

ちなみに、これらの情報は活用もしています。「横須賀データマップ」()という名前でGIS(地理情報システム)により地図上に情報を落としこんで地域分析し、広く市民に頒布したところ好評を得ました。マニフェスト大賞2013でも優秀政策提言賞を頂いた他、前橋市「まえばしデータマップ」など他市にも広がりを見せることになります。

 ※=小林のぶゆきHP「横須賀データマップ」 http://kobayashinobuyuki.com/index.php?DataMap

定着しつつあるオープンデータ

こうした活動を続けているうち、福井県鯖江市、静岡県などを皮切りに、公開するデータセットを一覧にして提供した「オープンデータライブラリ」等を設置する動きが相次ぎました。国も2010年に「新IT戦略」の策定、2012年に「オープンデータ戦略」決定、2015年に「地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン」および手引書の策定と、その間に政権交代を挟んでも推進方針は堅持され続けています。その後、議員立法による2016年「官民データ活用推進基本法」も施行され、ついに国と都道府県にとってオープンデータ推進は義務となりました。このような背景の下、横須賀市役所でも地理情報付きのオープンデータライブラリが開設されることとなっています。

近年、これらのオープンデータを使って、事業者等が新サービスを提供する事例は枚挙に暇がありません。内閣府「オープンデータ100」や総務省「オープンデータ活用事例集」に数多く紹介されている通りです。とりわけ国においてはオープンデータという言葉が生まれる前から、行政の公開情報が民間の経済活動の基盤となっています。土地の公図・登記簿等は有料ですが以前から公開されていますし、国が発表する国勢調査、GDP(国内総生産)、消費者物価指数、新設住宅着工戸数等を抜きに、我々の個人生活も企業活動も成立しません。

つまり、言いたいことは次の二つです。

第一に、かつての公共図書館が辿った道と同じように、オープンデータもあって当たり前のものとなるのではないかということです。誰が何に使うかを心配せずとも、いずれ勝手に使われることになるはずです。

第二に、使われるかどうかを問わず、「そもそも民主社会の基盤としてオープンデータは提供されるべき」との認識が広がるのではないかということです。統治者には、この社会をどう治めるべきか、判断材料となる情報が提供される必要があります。現代日本は曲がりなりにも民主制の政体を取っており、主権者は国民です。近代民主社会にとって図書館や公文書館が重要な機能であるように、建前のように見えてもオープンデータは提供しておかなければならないように思うのです。

第2回に続く

 

プロフィール

横須賀市議会議員 小林伸行 こばやし・のぶゆき

1975年福島県生。筑波大卒。地域情報誌と環境コンサルティングに携わった後、政治を志す。政策秘書資格試験に合格後、国会議員秘書を経て2011年より現職。無所属三期目。マニフェスト大賞実行委員会事務局長。かながわオープンデータ推進地方議員研究会所属。株式会社Public dots & Companyのサロンメンバー。

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