公民連携時代の指定管理者制度再考
公園からのまちづくり
株式会社Public dots & Company PdC エバンジェリスト
SOWING WORKS 代表
元国土交通省 都市局 公園緑地・景観課長
町田 誠
2020/10/20 公民連携時代の指定管理者制度再考(1)
2020/10/22 公民連携時代の指定管理者制度再考(2)
2020/10/27 公民連携時代の指定管理者制度再考(3)
2020/10/29 公民連携時代の指定管理者制度再考(4)
2020/11/03 公民連携時代の指定管理者制度再考(5)
2020/11/05 公民連携時代の指定管理者制度再考(6)
公園管理から豊かで楽しいまちづくりを
ウオーカブルシティー「居心地が良く歩きたくなるまち」が、まちづくり政策の本流になった今、公民連携をブレークスルーにしようとしていた時代と決別する時代に突入した。もはや公民連携はオプションでなく標準仕様、標準装備になったということを、心底理解しなければならない。これまで多くの税金を投入して整備してきた公共施設・公的空間に対する意識も、管理者たる地方公共団体はもちろんのこと、これらに関わってきた民間のセクター(企業や団体)、さらにユーザーたる市民まで、社会全体でのパラダイム(思考の枠組み)変換が必要だ。そうしなければ、公共施設・公的空間は、ウオーカブルシティー推進の原動力どころか足かせ、まちづくりのための不良資産になりかねない。
不可避に見える少子高齢化社会が招くこれからの社会経済環境は、まちづくり分野においてもさまざまな行き詰まりを想起させる。維持することが望ましいと考えられる市民サービスにしても本当に持続可能なのかどうか、これまでの社会常識を先入観とせず考えなければいけない局面に立っている。市民サービス提供の場としての公共施設・公共空間をどうマネージしていくのか。すでに重荷になっている、過去に整備した公有財産、社会資本ストックへどう対処していくのか。地方公共団体が置かれている状況が厳しければ厳しいほど、切実な課題として、従来通りの発想で切り抜けられないということは認識されている。もちろん、どれだけ喫緊な課題であるかは地方公共団体ごとに違うわけであるから、まだまだこれまでの延長線上での対処でいける、と考えているところもあって当然だが、真剣に考えるべきことは20年後、30年後に正常に機能しているか、ということなのだ。公民連携は切羽詰まったところが、必死に模索する手法では、もはやない。
公園や緑地の専門家として長く国土交通省に籍を置いた私としては、整備を進めてきたこれらの社会資本ストックが将来にわたって、機能し続けて、多くの社会的な効用を発揮する状態を保たせることに大きな責任を感じている。公園はあまり使われていない、めったに行かない、豊かな都市生活の装置として機能していない、禁止看板ばかりで何をしていいか分からない、などと言われるたびにどうにかしなくてはいけないと思う。
量的な問題がまだ存在しているというのも、一つの事実だ。東京や大阪など大都市圏の中心に住んでいる人にとっては、まだまだ身の回りに公園や緑が少なく、諸外国の都市に比べて環境が良くないという実感は大いにあるだろう。実際に、これらの都市では市民1人当たりの公園面積は3〜4平方㍍程度で、一方、諸外国の都市では1人当たり数十平方㍍であるのだから、その差は歴然としている。しかし、こうした現実を改善するため、少しでも多くの公園や緑地を長年整備してきた結果、現在、日本の都市公園のストック量は、11万カ所13万㌶、1人当たり面積も10・6平方㍍に達し、平均という意味においては、都市公園法施行令に定められている標準の10平方㍍を達成している状態になっている。あくまで平均値であって、これに遠く及ばない大都市の住民にしてみれば、まだまだ量的充足が必要、ということにはなるのだが、国全体の平均で見た場合に、目標としてきた標準に達したということを前提とした政策展開も必要である。それはひとえに、整備してきたストックを活かして、豊かな都市生活のために発揮される効用の最大化を図るということである。今風に言うならば、「居心地が良く歩きたくなるまち」ウオーカブルシティーを実現するための具体的な管理の方法論を探り、実践していくということだ。
そう、必要なのは、公民連携が標準装備として実装される時代の公園管理の在り方を考えて、真に豊かな都市生活や元気で美しい、楽しくなるまちづくりを進めていこうというプロジェクトなのだ。
公共空間としての公園のアドバンテージ
公園という社会資本は、他の社会資本ではなかなか実践しづらい利活用を実現しやすいという空間特性を持っている。
例えば、道路。車や人が滞りなく流れ、地域の経済活動を支える社会資本。今年は道路法が改正され、歩道空間において商業的な利用がより容易(従前は、都市再生特別措置法等の特例として行われ、各地で多くの実践例がある)になったということはあるが、自動車や自転車、歩行者が事故に遭うことなく安全に通行できるということが一義的には求められる。道路の構造、ハードについては主として道路法の体系で、また、交通・利用という視点からは道路交通法の体系で、空間の利活用、アクティビティー(活動)は管理される。大きな重量物である車両が一定の速度以上で通行するのであるから、規律正しい空間管理が厳しく求められて当然である。それでも、道路法の世界は、歩道空間の利活用を可能とする制度の新設に踏み切った。
そして、河川。昨今の地球温暖化の影響などを受けてか、気象現象の激烈化は、台風の大型化、集中的な豪雨の頻発などで、根本的な治水機能の向上が、いやが応でも求められる。河川空間の利用は「自由使用」が原則であるが、流水の流下能力の低下につながる物件等の設置については、河川敷地占用許可準則(1965年)によって、厳しいルールが決められてきた。しかし河川空間にしてもまちづくりの空間の一部として利用が求められる中、順次規制の緩和がなされ、2011年には商業的な空間利用を実現するための手続きが定められ、各地で実践例が出てきている。さらにさまざまなアクティビティーを受け入れ、空間の有効利用を進めるための諸制度、「かわまちづくり支援制度」や「ミズベリング(MIZBERING:水辺とまちが一体となった美しい景観と、新しい賑わいを生み出すムーブメント)」などは、河川管理者も一緒になってこうしたムーブメントを支えていくという姿勢が伝わってくる。
公園の世界も、2017年の都市公園法等の大改正によって、収益を上げる公園施設、例えばカフェやレストラン、ショップなどの民間事業者の手による設置管理(経営)を進める制度を、必要となる規制緩和や財政的な措置も含めて新設し、現時点で全国50程度のプロジェクトが進められている(うち10程度は営業が開始されている)。収益を上げるこれらの施設から生み出される利益は、公園の一部の再生整備や環境整備という形で吸収され、芝生の広場や子どもが遊ぶ遊具などが民間事業者の手により整備され、地方公共団体が負っていた仕事の一部が軽減され、市民・ユーザーにとっては、これまでにはなかった公園サービスとして、居心地の良い環境の中でゆったりとお茶を楽しむ質の高い時間がもたらされるようになった。事業者にとっては、収益を上げながらエリア価値向上につながる公共空間の創造に携わる機会が発生する。
しかし公園は、もともと多くのこうした施設(料亭や茶店、旅館など)と一緒に誕生した公共施設なのであって、これだけ注目されているPark─PFI制度(公募設置管理制度)も、都市公園法ができたときから存在している設置管理許可制度をベースにしている。これが、先に「他の社会資本ではなかなか実践しづらい利活用を実現しやすいという空間特性」と述べた一因である。この制度をベースにして、規制緩和や財政措置、そして何よりも事業者選定のための「手続き」を定めたことに意味がある。このパッケージがいわば商品となり、この看板があって初めて、設置管理許可制度が注目されるようになった。もちろん「他の社会資本ではなかなか実践しづらい利活用を実現しやすいという空間特性」とはこうしたことばかりではない。本質的にさまざまなアクティビティーや、実に多様な施設を制度上のみ込むことができるという空間特性が、他の公共施設・公的空間にはないアドバンテージになっているのだ。
ひと言でいうなら、道路や河川ほど厳しく管理することが求められない、比較的緩やかな管理であったとしても社会的に大きな、あるいは致命的な事件や事故に結び付きにくいという空間特性である。こうしたことを書くと全国の公園管理者から猛反発を受けそうだが、公園管理にはありとあらゆることが、利用者から、あるいは隣接の居住者から苦情・クレームとなって表れるという特性があることも、併せて紹介しておかなければならない。日常の中の一つ一つの身近な生活行動が苦情やクレームの対象になる。
その結果、公園にはクレームの数だけ禁止看板が立って、一部の人からは「何をすればいいの?」という疑問が投げ掛けられることになる。具体的な禁止事項が、地方公共団体の条例に逐一定められているわけではない。現場の裁量における現実的な対応が、禁止看板の追加という事態を招くのである。
(第2回につづく)
プロフィール
町田 誠(まちだ・まこと)
1982年旧建設省。旧国土庁、国土交通省等勤務の他、国際園芸・造園博覧会ジャパンフローラ2000、2005年日本国際博覧会(愛知万博)、全国都市緑化フェアTOKYO GREEN 2012において、会場整備、大型コンテンツのプロモート等に従事。さいたま市技監、東京都建設局公園緑地部長、国土交通省都市局公園緑地・景観課緑地環境室長、公園緑地・景観課長などを歴任。