青森県東北町長 長久保耕治
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2022/12/06 作物を育てるように、まちをつくる〜長久保耕治・青森県東北町長インタビュー(1)〜
2022/12/09 作物を育てるように、まちをつくる〜長久保耕治・青森県東北町長インタビュー(2)〜
2022/12/13 皆で考え、実を結ぶ取り組みを〜長久保耕治・青森県東北町長インタビュー(3)〜
2022/12/16 皆で考え、実を結ぶ取り組みを〜長久保耕治・青森県東北町長インタビュー(4)〜
青森県東北町は、県東部・上北地方のほぼ中央に位置する人口約1万7000人のまちです。県内最大の湖である小川原湖をはじめとする豊かな自然が見どころで、湖水浴場やキャンプ場など、自然を生かしたレジャー施設は訪れた人を楽しませています。
2021年4月に就任した同町の長久保耕治町長は、主要産業の一つである1次産業の持続的な発展に注力しています。従事者の高齢化や原料価格の高騰など、1次産業を取り巻く環境は以前にも増して厳しいものがあります。
そんな中で1次産業を通じてサステナブル(持続可能)なまちづくりに取り組む長久保町長に、インタビューしました。(写真1/聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
スマート農業へかじを切る
小田 就任以来、1次産業の振興に非常に注力されていますね。1次産業をめぐって課題を抱える自治体は多いので、東北町の取り組みを詳しく伺えますか。
長久保町長 私自身も農業を営んでいます。大学を卒業後に就農しました。20年以上も農業をしていると、構造問題がどんどん変化してきていることが分かります。
私が就農した頃は、農業人口は今よりも多く、また若年層も多かったです。規模を拡大したくても、競合する農家が多くて難しいといわれるほどでした。そこで稲作と野菜栽培の複合型でしっかりとした経営基盤をつくり、その中で人を雇って成長してきました。
しかし、現在は労働力不足の壁が立ちはだかっています。農業経営者は多いものの、いざ規模を拡大したいと思った際に人的資源が集められないのです。これは畜産や酪農の分野も同じで、大きな問題となっています。
そんな構造的な問題を打破するため、施設や機械への投資に対する町の支援を拡充してきました。中でも「スマート農業」を労働力不足解消の手立てとして活用することに注力しています。
小田 外国人の労働力も選択肢として考えられますが、その点についてはいかがでしょうか?
長久保町長 もちろん外国人研修生の受け入れも進めてきました。主に中国やベトナムからです。しかし、ここ数年は新型コロナウイルス禍で研修生の入国数が減少したことから、経営的に規模を縮小せざるを得ない農家も出てきました。そこで研修生の受け入れと並行して、スマート農業を進めていこうとしています。
小田 スマート農業に対する町の支援は、補助金でしょうか?
長久保町長 「スマート農業関連支援事業費補助金」を設けています。新型コロナの感染拡大防止やポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の対策のために導入する関連機器や、ドローン(小型無人機)の資格取得に要する費用に対し、町が一定程度の補助を行うという内容です。
同時に、わが町の農業の持続可能性や将来像を、この機会に町民と一体になって洗い直そうともしています。新規就農する人も、先祖からの田畑を守る人も、個人も法人も、さまざまな人がいらっしゃいます。そうした人たちがこの地で農業を営み続けられるよう、国や県が支援し切れない部分を町が支援し、寄り添っていけるような対策を考えています。
補助事業もその他の支援策も、利用のハードルを低くすることを最も意識しています。それから外国人の労働力に頼り切るのではなく、国内での労働力を確保するためのマッチング方法も模索しているところです。
産品の出口戦略も重要
小田 「町民と一体になって」とおっしゃいましたが、町の皆さんとはどのような対話の場を設けているのですか?
長久保町長 昨年から「まちづくりミーティング」という場を設けました。最初は各地区との話し合いから始まりましたが、今年に入ってからは各種団体や協議会とも交流を図っています。先日は酪農家とのミーティングを行いました。
意見交換すると、やはり行政が考えていることと酪農家の皆さんの現場感には相違があることが分かります。その差を埋めつつ、どうすれば町が寄り添うことができるのかを考えながら、1次産業を支援していきたいと思っています。
出口戦略も非常に重要な位置付けとして考えています。生産した物をどう消費してもらうか、です。
町の生産物は野菜、牛乳、肉など多岐にわたります。それらを加工して普及させるため、例えばふるさと納税の返礼品や、道の駅にアンテナショップ的な役割を持たせるとともに、大都市など消費地に出向き、PR活動をしているところです。これに関しては、私自身がトップセールスしています。
小田 入り口と出口と、どちらも押さえるのですね。
長久保町長 その通りです。もう一つ、出口戦略として大事だと思っているのが、町民が地産地消の精神を育むことです。町内や道の駅にある食堂、商店などに地元で生産された原材料や加工品が並び、町の皆さんで消費する。そうして町全体で東北町の農業、畜産・酪農業の良さを共有していけば、おのずと外に広がっていくと思います。
もちろん消費が大きい都市への発信は大切です。しかし、町の中で自分たちの持つ価値について理解を深めることも、同時に行っていかなければなりません。
東北町の1次産業の取り組みをまとめると、まずは現在抱えている問題に町全体でしっかり目を向けること、そして、それに対して国や県が支援し切れない部分を町が支援すること、最後に出口戦略です。この3本柱で進めています。
小田 日本の1次産業をめぐる問題とも言えることに対し、あらゆる方策で取り組もうとしていることが分かりました。ちなみに、長久保町長が栽培を得意とする作物は何ですか?
長久保町長 東北町の一番の特産物でもあるナガイモです。ニンニクや根菜類も、昨今の健康志向の高まりで需要が大きくなりつつあるので栽培しています。これらは町の中心とも言える作物です(写真2)。
(第2回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年10月31日号
【プロフィール】
青森県東北町長・長久保 耕治(ながくぼ こうじ)
1972年生まれ。東京農業大農学部を卒業後、地元の青森県東北町に戻って就農。2014年同町議に初当選。21年4月同町長に就任し、現在1期目。座右の銘は「我以外皆我師也」。