地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(8)


株式会社パブリッククロス代表取締役
元大津市議会議員・藤井哲也

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(記事一覧)
Ⅰ.就職氷河期世代支援の概要
    第1回 就職氷河期世代が生まれた社会背景
    第2回 就職氷河期世代支援に向けた動き
    第3回 就職氷河期世代の職員採用をめぐる取り組み
    第4回 就職氷河期世代支援プログラムの概要
Ⅱ.就職氷河期世代支援の問題点整理
    第5回 就職氷河期世代を活用することによって得られるメリット/就職氷河期世代支援・官民連携の取り組み
    第6回 先行モデル地域の取り組み
    第7回 施策推進における課題
Ⅲ.政策提言
    第8回 政策提言/コラム「越境的学習の効果は?」/支援事業者へのインタビュー

Ⅲ.政策提言

第7回まで、就職氷河期世代の現状や先進事例、課題などを取り上げてきました。本年から集中支援が始まる就職氷河期世代支援について、そうした課題等を踏まえた政策提言を行います。

提言① 書類選考を必要としないマッチング機会の創出

就職氷河期世代で不本意に非正規を継続してきた方や無業者にとって、一般的には就職に有利になる職務経歴を見掛けることはあまりありません。そこで、書類選考を必要としない人物重視のマッチング機会を設けることを提言します。関東地方の自治体での合同企業説明会(合説)で、民間事業者が中間に入り応募を希望する企業へ無料職業紹介を行い大きな成果を挙げた実績や、関西地方の自治体でいわゆる「逆合説」を行い、求職者側がブースを持ち企業が回り、職務経歴に依らない、自身がPRしたいことを述べる形式のイベントを開催し、話題になった事例が見られます。書類選考がないというコンセプトで、求職者側にとってもマッチングイベントへの参加ハードルは低くなります(「支援事業者へのインタビュー」参照)。

また、マッチングの際にはカウンセラーなどのリコメンド(推薦)があると支援対象者にとっても、また企業にとっても安心です。ハイクラス人材の採用ではリファレンスサービス(採用しようとする人材をよく知る方からの参照情報の利用)が近年よく用いられています。この考え方を就職氷河期世代支援にも活用したいところです。

提言② 職務経験にとらわれないジョブカウンセリングと職能評価の推進

ジョブスキルは仕事以外の経験からも身に付けられることが分かってきました。越境的学習効果といわれ、例えば子育てに関わることで、マルチタスク管理力や対人コミュニケーション力などマネジメントに求められるスキルを獲得できたり、災害ボランティアの経験を積むことで、リスク管理力や判断力を身に付けられたりします。

ジョブカードは職務経験を中心に記載するものとなっています。そのため、職務外の経験も記載・評価する第二のジョブカードのようなシートを独自に作成することを提言します。職務上の経験からは就労支援で有利となる事柄が少なくても、それ以外の経験をキャリアカウンセラーが丁寧にヒアリングする中で、発揮が期待される職能を見つけられるはずです。そうしたことを記載するシートを作成し、求人企業や職場体験の受け入れ企業へのPRに活用することができるはずです(「コラム」参照)。

提言③ 潜在的な求職者を掘り起こすイベントの実施

合説やミニ合説、セミナーなどのイベントは、支援対象者にとって敷居が高いと感じることもあります。筆者が知る限り、行政が開催している〝いかにも感〟があるイベントは、「ダサくて参加できない」と考えている方が相当数います。古風なイベントではなく、2020年代の現代的な面白い、スマートなイベントに転換していかないといけません。

関西のある自治体では新型コロナウイルスの影響で開催延期となりましたが、会場に設置したダーツで訪問先企業を決める、ゲーム性のあるマッチングイベントを企画していました。その他、ラジオDJを招いてどうすればその人のようにうまく話ができるかを学ぶセミナーや、トランプやゲームなどのツールを用いて楽しみながらキャリアプラン作りや業界研究ができるセミナーなどを実施している自治体もあります。イベントを案内するチラシやホームページのデザインにも、意識して注意を払いたいところです。

【コラム:越境的学習の効果は?】
越境的学習とは、個々人が所属している組織の境界を行き来しつつ自身の仕事に関する事柄についても学習することとされています。
筆者が就職氷河期世代支援を検討する中で行った越境的学習に関する実証分析(重回帰分析)では、正社員での就労経験がスキル獲得に有意につながっている一方で、非正規社員での就労経験はスキル獲得との関係性に有意性を確認できませんでした。同時に行った分析では、育児経験や地域やNPOでのボランティア経験がビジネススキル獲得に貢献している結果となりました。つまり、非正規社員歴が長く、これまでスキル獲得の機会がなかったとしても、職務外の経験(例えば子育てやボランティア経験)を通じて代替的・補完的にスキル獲得を進める可能性があることを示唆しています。(図表2参照)
石山恒貴・法政大大学院教授は、「社外活動については、所属する企業とは明確に異なる領域の人々と交流する場合に、本業の業務遂行状況に正の影響を及ぼす可能性が示唆された」()と述べられています。株式会社マクロミルとNPO法人クロスフィールズの協働調べ「2019年 組織外の活動・経験に関する調査」でも、ボランティア活動などで創造力や課題発見力の獲得につながった回答者の割合が一定以上となっており、越境活動・経験がスキル獲得に影響を与えている結果となっています。
 ※「越境的学習メカニズム」( 石山・2018年)

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