株式会社パブリック・クロス代表取締役
元大津市議会議員・藤井哲也
地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(記事一覧)
Ⅰ.就職氷河期世代支援の概要
第1回 就職氷河期世代が生まれた社会背景
第2回 就職氷河期世代支援に向けた動き
第3回 就職氷河期世代の職員採用をめぐる取り組み
第4回 就職氷河期世代支援プログラムの概要
Ⅱ.就職氷河期世代支援の問題点整理
第5回 就職氷河期世代を活用することによって得られるメリット/就職氷河期世代支援・官民連携の取り組み
第6回 先行モデル地域の取り組み
第7回 施策推進における課題
Ⅲ.政策提言
第8回 政策提言/コラム「越境的学習の効果は?」/支援事業者へのインタビュー
Ⅱ.就職氷河期世代支援の問題点整理
1.就職氷河期世代を活用することによって得られるメリット
就職氷河期世代支援を進めるに当たり、行政・自治体が積極的に動いても、民間側の反応があまり良くなければ施策の実効性は低いものとなります。自治体で採用できる就職氷河期世代はたかが数人で、雇用の受け皿の大半を占める民間企業の理解や協力がなければ、就職氷河期世代支援は絵に描いた餅で終わってしまいます。民間企業の中でも全労働者の7割が働く中小企業まで、いかにして施策効果を浸透させることができるかが、重要なポイントになってきます。
そうしたことから、本稿は自治体向けの記事ではあるものの、民間企業にとって就職氷河期世代を採用することでどのようなメリットがあるのかを簡単にまとめておきたいと考えます。
①深刻な人手不足の解消
民間企業における深刻な人手不足の解消に、就職氷河期世代は十分に活用できる点がメリットとして挙げられます。業種や職種によっては求人難が続いています。就職氷河期世代にも多様な人材がいて、それぞれの特性に合わせてマッチした職場も探せば見つかるはずです。寡黙で人付き合いが苦手な方であっても、黙々と一つのことを成し遂げる熟練を要する仕事とマッチしたケースや、しばらく体調を崩し仕事をしていなくても大変思いやりがあって福祉の仕事にはまる方もおられます。キャリアカウンセラー次第ではありますが、しっかりと支援対象者の希望や特性、経験を把握し、職へとつなげていくことが必要となります。
②組織における多様性の推進
多様な組織ほど面白いアイデアが生まれ、独創的な商品やサービスなどが展開されやすいといわれています。イノベーションは異端から生じるともされ、会社に内密に調査研究を始めて偶然大ヒットした商品も世の中に多くありますし、近年ではオープンイノベーションを創発するために、社内外のさまざまな交流の促進が進められています。女性の活用においても商品だけではなく、働き方や組織マネジメントの在り方などにまで変化を生み出しています。就職氷河期世代で、不本意に非正規雇用を継続してきた方や無業状態にあった方それぞれの個性や経験を活かし、組織の多様化を進めることができるなら、その組織にとってプラスになる効果を期待できるはずです。
③組織内での人口構成の調整
現在40歳前後を迎える就職氷河期世代は採用活動も低調であったことから、組織内の人員構成で手薄になっていることが散見されます。これまで非正規で働いてきた方の中にも、有資格者や貴重な職務経験を積んできた方はいます。その中には子育てや家事、介護などと両立した働き方が実現できるなら正社員として働きたいという方も見掛けることができます。また仮に他企業で正社員で働いていたとしても、待遇面で非正規雇用者とあまり変わらないこともあります。正社員としてより良い処遇を準備できるなら、組織内での人口構成のアンバランスを解消できるはずです。
現在、就職氷河期世代の採用活動は緒に就いたばかりです。民間企業ではあまり事例は見られないものの、多くの自治体がすでに職員採用を進めています。当該世代の採用や職場での仕事ぶりや成果を積極的に社会に発信することが、民間企業にとって就職氷河期世代の採用機運の醸成につながります。
2.就職氷河期世代支援・官民連携の取り組み
昨年11月、政府は就職氷河期世代支援を官民連携で進めるべく、「就職氷河期世代支援の推進に向けた全国プラットフォーム」を設立し、第1回会合を開催しました。西村康稔全世代型社会保障改革担当大臣が議長となり、関係府省の大臣や、愛知県の大村秀章知事、山口県宇部市の久保田后子市長といった官サイドと、経団連会長や日本商工会議所会頭、全国中小企業団体中央会会長など民サイドの関係者のほか、支援事業者や有識者によって構成される会議体です。就職氷河期世代等への支援に係る課題やニーズについての認識を共有し、今後の支援策等について意見交換することを通じ、官民が協働して就職氷河期世代等の支援に関する社会の関心を高め、社会全体で取り組む機運を醸成し、支援の実効性を高めることを目的としています。
先にも触れたように、就職氷河期世代支援、具体的には不本意に非正規雇用を継続してきた方の正社員就職や、長期無業者・ひきこもり者の就労支援にとって、実効性を確保できるかは官民連携の推進次第といっても過言ではありません。単に官民連携プラットフォームを形成したから施策が推進されるというものではなく、当事者、とりわけ行政側がどれだけ熱意をもって、この社会課題に取り組んでいけるのかが重要となってくると考えます。
「全国プラットフォーム」は、実質的には政府による本施策や地方自治体に向けた号砲的な意味合いがあると考えてよいでしょう。
昨年9月、厚生労働省は、「就職氷河期世代活躍支援都道府県プラットフォーム設置要領(モデル都道府県)」を各地の労働局や都道府県に通知し、都道府県単位で官民連携プラットフォームの設置を進めてきました。愛知県や大阪府、熊本県、福岡県などでモデル的に取り組みが始められており、関係団体の役割調整や2020年度における予算協議、進捗管理方法の調整、府県単位の計画策定などが実施されてきました。
また、市町村単位のプラットフォームの設置も同時に通知されています。市町村など基礎自治体に期待される役割としては、ハローワークや都道府県、経済団体や自立支援機関、地域若者サポートステーション等と連携して、就職氷河期世代のうち、特に長期無業の方やひきこもりの状態の方を対象とした支援を行うものとなっています。支援を通じて得た事例共有や、個別ケースの具体的な支援プラン作成に関する情報共有、当該地域における対応方針の検討等を行う場としての機能も求められています。
(第6回に続く)
筆者プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリック・クロス代表取締役。2003年の創業以来、若年層・就職氷河期世代の就労支援に従事。2011年より大津市議会議員(滋賀県)を2期務め、地域の雇用労政や産業振興に注力して活動。株式会社ミクシィの社長室渉外担当など歴任。著書・寄稿に「就職氷河期世代の非正規ミドルを戦力化する 人事実務、マネジメント」(2019年)など多数。京都大公共政策大学院修了。1978年生まれ。